後悔と豪快
救世主の言い分を分かりやすく例えると、服を脱げ、シャワーに入った後はベッドに来い。
という事だ、まんまと騙されたというか、分かってて騙されにいっていると思われてもしょうがない醜態である、過去の過ちにおいても何度自分で自分を罵ったかしれない。
しかし私のもう1つの弱点、私が面食いである事も、少なからずこの醜態の一因を担っている事を、私はいい加減気づかなければならないのだろう。
『拒否をしても遅いですよ、レナさん、このボイスレコーダーにさっきの音声を録ってある、貴方が了承したさっきの音声をね』
『え?貴方私をレナって』
『おっと、興奮が抑えきれなくてついつい名前で呼んでたよ、オヒトリチャンネルのレナちゃん』
『嘘、あんた最初から私を狙って…ってこと!?』
『ぶふっ、この1ヶ月何度も君の部屋に入ったのに気付かないなんて、レナちゃんはチャンネルの中だけじゃなくて現実でもドジっ娘なんだねぇ』
舐め回すような視線に、私の精神は凍りついて録に悲鳴を出す事もできなかった、普段送られてくるファンレターの比でない悪寒と鳥肌、本物の変態が目の前にいるという事実に、私の脳みその容量をとっくに限界だ。
身動きひとつ取れない私に対し1歩ずつ距離を詰める男。
すると。
『あっつ!』
彼は持っていたボイスレコーダーを床に投げた、私の視線は自然と投げ捨てられたそれを追ってしまった。私の足元まで転がってきたそれは、テレビの砂嵐のような不快な音が鳴り響かせる。
ザザッ、ザザザッ、ピーー
不快な音しか奏でていなかった筈のそれは、徐々に音声を鮮明にしていく。
ピーー、ピーー、ニ、ゲ、テ
『え?』
逃げて?確かに今、逃げてと言ったような。
そんな事を考えている私に男がとうとう近づいて来た、来たのだが。
私は動けなかった。
(やややや、ヤバい、これは本格的にヤバいかもー)
心の中はパニックだが、実際口に出せてる単語は、『あ』とか『え』とかしか出てこない。
(どうしよう、どうしよう、そうだ110番、119番?あぁでも手が震えて)
『ヒィ!!』
手は震えたまま、けれど、男の尋常ではない悲鳴にあれだけ来ないでくれと思った男へ視線をやってしまう。
男がさっきまで私に向けていたあの下衆な視線を、今度は明らかに恐ろしい者を見た目をしている。
『ちょ、ちょっと貴方、どうし』
『来るな!!こっちへ来るな!この化物!』
『は?』
化物、私がこれまでの人生の中で一度だって言われた覚えの無い呼び名に、私の心は激しく燃えた。
『はぁ!何あんた!私にストーカー働いてた分際で何化物扱いしてんのよ!私よりあんたの方が化物でしょ!?この発情美形猿!』
『え?ち、違うよ!レナちゃんの事じゃなくて、俺が言ってるのは後ろの、ってぇ!ヒィィイ!助けてママーーー!!』
ママって、今時そんなセリフ言う人がいたのか、と何故か男に対してちょっと感心していたが、そう、解決していない問題が一つ二つ。
『あれ?さっきあの男、私の後ろって…ッ!』
振り返った先、確かにいた、けれどその人は半透明で、足が無くて、顔半分に大きな火傷のある白装束の女だった。幽霊を見た、見たというのに私はひどく冷静で、同時にある事に気づいた。
『貴方もしかして、私の動画に写り込んでた顔の人?』
霊に話しかけるなんて勇気、普段の私なら持ち合わせてない勇気、けれどなんというか、この人からはなんというか、邪気みたいなものは感じなかったのだ。
私の問いに対して、彼女は恥ずかしそうに頷いた、そのはにかんだ顔を見たら、私も釣られて笑ってしまった。なんだこれ、私は部屋で幽霊と談笑してる?
『さっきのボイスレコーダー、あれも貴方なの?あと、あの男が怖がってたのも?』
彼女は二回、今度はしてやったという自慢気な顔で頷いてくれた。かわえぇ。
尊いとはこういう子の事を言うんだな。
『もしかしなくても、貴方が私を助けてくれたのよね?でも、何で?』
女の霊は、とても恥ずかしそうに白装束の長い袖を使って顔を隠してしまった、チラチラとこちらを伺いつつ、最後は観念したように私の机に置いていたメモ用紙とペンを本来ならポルターガイスト現象、とか呼ばれる感じの能力で何か書き始めた。
『ファンです』
と書かれてた。
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