同居人パニック
『なんだ、夢かぁー、はぁーあ、マジで最悪…
何あの目玉妖怪、最近そんなゲームやったかなー』
昨日の夜は全く最悪だった、という事は紛れもない事実だ、しかし寝る前と寝る瞬間の記憶が曖昧ではある。
けれど結果としてぐっすりと寝る事はできた。
寝汗で服がビッショリな事に驚きはしたが、まぁたまには朝シャンから始まる朝も良いかと、昨夜の夢を吹き飛ばす謎のテンションでシャワールームへ向かおうとしたその時、携帯からメールを受信した事を知らせる聞き慣れた音楽が鳴り響く。
誰だろう?この時シャワーを優先しておけば、今日1日の行動は大きく変わっていただろう。
メールには同じ配信仲間から『大丈夫?すぐに消さないとヤバいかもよ!?』と、何の事か分からない私に追い討ちをかけるように私のメールボックスは99+、つまりは100以上の通知が来ている事を示している。全てのメールを確認するより前に私は自身のチャンネルへと飛んだ。
するとそこには大量の低評価がつけられており、コメントには数々の誹謗中傷が書き込まれている。
『え?な、なんで…』
理解が追い付かず、私は尻餅をつくようにベッドへ腰を下ろす。
配信者となってから類を見ない誹謗中傷、昨夜の私への称賛の言葉が全て嘘であったと言わんばかりだった。
暫くは呆けていた私も、事態を収束させないといけないと思いすぐさまパソコンを開いた。
というのも、私が日頃から交流のある顔見知りとテレビ電話をしようと思ったからだ、彼女とは高校からの付き合いで気心も知れた仲、今の私はこれを1人で抱え込む自信が無かった。
『ルミ?ごめんこんな朝から…』
『良いって、あんた大丈夫?』
『ごめん、私も何がなんだか分からなくて、昨日のルームツアー配信が原因かも』
『え?やったのルームツアー、絶対無理って言ってたじゃん?』
『う、うん、皆がやって欲しいって言ってて、やろうかなって、沢山準備してやって、皆の反応も良かったのに…こんな事になるなんて』
『ちょっと待って、今携帯で見る』
『ありがと、今ちょっと見る自信無い』
『えーっと、え、あんたリハしなかったの?』
『え、したけど、念入りな奴、何?なんて書いてあるの?』
『人気女性配信者、配信中に顔バレ、素顔は不細工って、あ、切り抜き動画出てる』
『え、嘘、そんな筈…』
『ヒッ!』
『ルミ!?どうしたの?』
『こ、これ、何?』
『何!?なんなの!?』
私の動揺はこの時頂点だった、ルミも、私のこれまでの付き合いで見せた事も無い恐怖に染まった顔をしていた、そしてその恐怖を作り出した1枚の画像を携帯に送ってもらった私は、ルミと顔を見合せた。
それは私のルームツアー配信のアーカイブ、配信の終盤、私の寝室を写したシーンのスクリーンショットだが何か違和感を感じる、私があれほど念入りにリハーサルを繰り返し、顔バレも含みあらゆる対策をした上で配信をした、失敗はあり得ない。しかし現にこの画像には顔が写っていた、私の寝室に置かれている鏡に女性の顔が写し出されていていた。それも鮮明に。
『嘘、私、これ…』
『これ、あんたの顔じゃないよね?』
『誰なの?この顔、これ誰かが合成したんじゃないの!?』
『それは無いよ、私今あんたのチャンネルにある元動画見てるけど、写ってる、この画像と同じだよ』
昨日の配信で私が写した私の寝室、その寝室の鏡に私ではない誰かの顔が写し出されている、良く見なければ分からない程一瞬の間移りこんだようで、公開当初は発見されていなかった、現に私が寝る迄は何も無かった、しかし私が寝ているこの数時間の内に発見、更には画像をより鮮明にしたものがネットにばらまかれていた。
ネットの反応はどれも同じような内容で(こんなブサイクだったのか)とか、(うわ、応援するの辞めるわ)等といったものばかりだった。
『何よこれ、幽霊?』
ルミのその言葉に、私はハッとして、画像の顔をもう一度凝視した。
『う、嘘』
『ちょっと、凄い汗だけど大丈夫?』
『お、同じ、昨日と…』
『え、昨日って?』
同じだった、画像の女がこちらを見る目と、昨夜の天井からの目。
昨夜見た目と同じく、充血し、憎しみと憎悪に取り憑かれたと表現するに相応しいあの目だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます