失業してみた!

うみとそら

失業してみた!

−退職日1ヶ月前−


「みんなには大変申し訳ないのだが、この会社は業績悪化で来月に倒産することになった」

いつもの朝礼で社長が言った。

(がーん。やっぱそうなったか)

「本当に申し訳ない」

社長は重々しい雰囲気ではあるが、社員はそこまでショックを受けていない。

なぜなら、社員全員がすでに知っていたからだ。

数ヶ月前から業績が悪くなってることが目に見えてわかるようになり、役員からは倒産する可能性が高いから転職活動を勧められたくらいなのだ。

ただ、それでもショックだった。

今年で30歳になるが、人生の3分の1をこの会社で過ごした。

「本当に申し訳ない」

社長が深々と頭を下げた。

「社長、頭を上げてください」

社長がかわいそうに見えてしまい、思わずそう言ってしまった。

「田村くん、ありがとう」

虚ろに見える目でおれにそう言った。

それから社長が、失業保険など色々な手続きの話や知人の会社へ紹介してくれるなど1時間近くかけて社員全員の今後のことを話てくれた。

(おれはまだ転職活動はしていないけど、まあいけるっしょ!)


−退職日当日−


(あれ?転職先見つかってないぞ??あれれ???)

なんとなく転職サイトに登録して、なんとなく履歴書を送ってたが全滅だった。

社長の知人の会社だと給料がそこまで変わらないので、断っていたのが仇となった。

(ミスったなああああ!)

「緒方さあ、これからどうするんだ?」

隣で自分のデスクの荷物を片付けてる後輩に転職活動の現状を聞いてみた。

(さすがにまだ決まってないよな)

「来週から新しい職場で働く予定です!」

(うそお!?)

「ちなみにどんな会社なんだ?」

「同じ営業職です!」

「へ、へえー」

汗が止まらない。

「けど、あれだろ?年収下がるだろ?辛いよなー」

緒方が小声で言ってきた。

「実はここでの営業実績のおかげで少し上がるんですよ」

(オロロロロロロ)

「や、やるじゃん」

動揺が隠せない。

「先輩はどんな会社に行くんですか?」

「おれは大手メーカーの営業マンになる予定」

「まじっすか!?さすがっす」

大嘘です。

焦りはじめてそこからの会話は全く覚えていない。

ただ、退社時間に迫るにつれて考えても仕方がないと思った。

(まあ、もう少し頑張ればいけるっしょ!)


−退職日から1ヶ月後−


「あれれ??仕事みつからないぞ!?」

家で大きな独り言を言っていた。

「やばいぞ!やばい!まじで面接すらできない!」

求人票には「30歳以上の営業経験者大募集!」と書いてあるのに全然書類面接すら通らない。

「このままだと家賃払えない」


−退職日から3ヶ月後−


「来世は石油王のペットになりたい」

不採用が続きすぎて現実が見えなくなった。

「失業保険ももう貰えない。どうすりゃいい!?」

もう来月からは家賃が払えずに住むことができない。

「とりあえずお袋に電話するか」

スマホをとりだして電話をかけた。

「あ、お袋?実家帰りたいんだけどいいかな?」

「どうしたんだい急に」

「3ヶ月前にリストラされたんだわ!」

プープープー。

「切りやがったな!お袋め!」

もう一度かけたが、着拒されてた。

「クソがあ!!!」


−退職日から1年後−


「いやん♡お客さんったら♡」

お客さんが手を触ってきたので軽くあしらった。

「いーじゃん手触るくらいー」

(50近くのおっさんの手はやだ!)

お酒が入っているとみんなこう。

「けど田村ちゃんは本当に可愛いなあ、家内と変えて欲しいくらいだよ」

「だめよ、奥さん大切にしなきゃ♡」

「へーい。そういえば、田村ちゃんはここにきてもう半年はたつ??」

「ちょうど今日で半年になるわっ」

そう、あれから転職活動を成功させるために自己分析をしまくった結果、そもそも自分の性別が違うのではと考えて「性」についてとことん考えた。

その結果、とある2丁目のとあるゲイバーで今は楽しく働いている。

(ふふ。今日も幸せ♡)

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