第8話 黒くなる心
なんとか契約は切られずにすんだが、半分以上の取引がダメになった。それでも完全に切られるより良かった。
事態を終息させた亮一が、オフィスでため息をついていると、課長がやってきた。
「さっき、小柳から聞いた。どうなった?」
「はい。なんとか契約じたいは継続させてもらえました。だだ、えっと…あの会社で扱ってるほとんどの取引はダメになりました…」
「!?そうか…まったく、大事な取引先だったんだがな。」
それは自分が1番わかっている。と心の中で亮一は思った。それでもやれるだけの事はやったのだ。おかげで、大元の契約じたいを切られることはなかった。
「次は気をつけてくれよ。」
課長の一言に耳を疑った。
確かに俺のクライアントだったが、原因を作ったのは小柳だ。どんなに俺が気をつけていても知らない所で何かされれば防ぎようがない。
「で、ですが、課長!」
さすがの亮一も反論しようとした。
しかし、
「だいたい、こんな大事なクライアントを抱えてるのに、休んだりするからだろう。もう少し考えてくれ。」
(は……?俺が休んだせい?なのか?)
亮一はグラグラと頭の中が揺れていた。
(俺のせい…?)
課長がまだ何か言っていたが、ほとんど聞こえなかった。それだけショックだった。
更に追い討ちのように嫌なことは続く。
「山本さん、忙しいとこ申し訳ないんですけど、これ通畑さんに確認とってとらっていいですか?」
午後から外回りの矢野がバタバタしながら頼んできた。亮一は"通畑"というその名前に心がヒヤリとした。
だいたいの人に苦手、もしくは嫌いな人間が1人くらいいると思う。亮一にとってそんな存在が"通畑"たった。
入社して以来、何故かその人は亮一を無視するのだ。仕事上どうしても関わらないといけない時は亮一から声をかけるが、その時の態度も酷いものだった。
(あー…最悪だ。最悪だ。)
"最悪"という言葉以外、頭に浮かんでこない亮一。なんとか他の人に頼めないかと思案したが、そんなことをして、もしまた今日の自分のような事になったらそれこそ矢野に申し訳ない。
(…………………………)
しばらく自分と葛藤した後、
仕事なのだからと自分を奮い立たせ重々しい足取りで、その人所へ向かった。
あの後の記憶はほとんどなかった。
何を言われて、どうやって家まで帰ってきたのか…まるで飲み過ぎた次の日みたいな感覚だ。気分も悪い。
案の定、通畑の態度と言い方は最悪だった。
どうやったらあんな風にできるのか。
最初の頃、亮一は自分にも悪い所があったのかもしれないと考えて、なるべく自己中心的にならないよう心がけていた。
だがしかし、彼はまったく変わらなかった。
こちらが、お礼を言ったとしても返事すら返さず横を素通りするのだった。
(俺、何かしたか…?本当にわからねぇ…)
重くなった心で答えのわからない問いをグルグルと考えてしまう。
そして、ますます心は黒く重くなるばかりだった。
第8章 終わり
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