第7話 休んだ次の日は…

「おはようございます!先輩、体調はどうですか?」

小柳が声をかけてきた。

「あぁ、大丈夫だ。迷惑かけたな」

亮一は答えた。






はじめて会社を休んで行った喫茶店。そこで出会った、北条 十夜。

あの日は十夜のケータイが鳴り、誰かに呼び出された彼はケーキを食べた後急いで出ていった。

「山本さん、それじゃあまた!」

そう言い残して立ち去った彼を少しホッとした気持ちで亮一は見送った。


(初対面のしかも年下相手になにやってんだか…)


亮一はさっきまでの会話を思いだし自己嫌悪していた。


「私の甥が、ご迷惑をおかけしてすみません。」

店主が申し訳なさそうな笑顔をむけながら言った。


「いえ、…っえぇ!おっ甥ごさんですか!?」

いきなりの情報だった。でも言われてみれば雰囲気が少しにていた気もする。


「いつもああやってお構いなしに声をかけるんです。まぁ悪い人間ではないので良ければ仲良くしてやって下さい。」


そのあとは、店主とたわいもない話をして亮一はあの喫茶店を後にした。店をでたのは昼の少し前だった。











「山本さん、お昼行かないんですか?」



その声にはっとし、時計に目をやると時計の針は12時を5分ほど過ぎたとこだった。


「矢野は?飯、行かないのか?」

声をかけてくれた矢野はまだパソコンと向かいあって作業していた。


「おれはまだ仕事が残ってるんで。」


「手伝うか?」 


「いえ、大丈夫です。少しなので。」


そういう矢野を無理やり手伝うのもおかしな話なので、"無理するなよ"と一言だけ言って食堂に向かった。



「先輩、先輩!ここです!」

食堂につくと小柳が遠くで手を振っていた。

亮一はいつものカレーライスを頼むと、小柳の呼ぶ席へと向かう。


「俺、お前と約束してたか?」


「えー!昼に行く前声かけたじゃないですか!きいてなかったんすか?」


(しまった、まったく記憶がない)


「あぁ、そうだったか…悪い。で、なにか用か?」


「用がなくちゃ先輩と飯も食えないんですか?」


「いや、別にそういう訳じゃないが…」

少し困った亮一をみて小柳は言った。


「あ~なんて言うか昨日、先輩休みだったじゃないですか?それでその…」

小柳は言いずらそうにしている。


「なんだよ?何かあったのか?」

口ごもる小柳を見て亮一は心がヒヤリとした。


(まさか、ズル休みだったってばれたか…?)


だがしかし、小柳の口からはまったく予想外のことを聞かされた。


「そのっ…昨日先輩が大事にしてたクライアントの案件が…えっと…ダメニナリソウデ…」


言葉の最後は殆どきえかけていた。


「!!!!なっ!?なんだって!?」


「きっ、昨日急にクライアントから連絡があって今までの仕様を全面的に変えたいって、でも先輩は休みだったし、ちょうど課長もいなくて…」


「いなくて、どうしたんだ?」


「オレが対応できると思ったんです…」


(はぁ~。なんとなくわかった。あそこの社長はひと癖もふた癖もある人だ。その場しのぎの返事なんかで納得してもらえる相手ではない)


「で?先方はなんて?」


「…先輩が出勤したら真っ先に連絡するよう伝えてくれって…」


(!!!!)


「…お前、今昼だぞ?…」


「はい…」


「なんで朝いちでいわなかったんだ!?」

怒鳴るとまではいかなかったが、少し語尾が強くなってしまった。


「すっ、すみません!!どうしても言い出せなくて。先輩あのクライアント取る為に凄い頑張ってたし…」


頑張ってた。確かに頑張ってた。初めて自分の力で掴んだ大口のクライアントだ。あの社長を口説きたかったのはうちだけではない。

寝るまもおしんだし、休日も返上してやっと繋いだ契約だった。


(それをたった1日で…マジか…)


ガックリと肩を落とした亮一だったが、とにかく先方に連絡をいれるのが先だと思い、小柳とカレーをそのままに急いでオフィスまで戻った。




第7章 おわり

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