第6話 心のありかた 感じかた

「あの、その…サボってるってことに罪悪感とかって感じないんですか?」

つい亮一は聞いてしまった。


「え?ま~少しはありますよ。でも仕方ないじゃないですか。休みたいんだから。」 


「でも、誰かに迷惑かけてるんですよ。」


「いやぁ、会社を休むことでかける迷惑なんてがしれてますよ?」

十夜は飄々ひょうひょうと言う。


「でも、それじゃあ迷惑をかけられた人が理不尽な思いをするじゃないですか。」

ズル休みをした自分が、何を言っているんだという感じだが、それでも十夜が会社を休んだ事にたいして悪いと思っていない姿に少し腹がたったのだ。


「んー、でも次その人が休んだ時は他の誰かが迷惑をかけられる訳だし、お互い様じゃないですか?というか迷惑なんですかね?」

少し頭をかしげう~んと考える十夜を見て亮一はさらに言った。


「迷惑ですよ。本当ならしなくていい仕事をしたり、残業になったり。これが迷惑以外のなんだって言うんですか?」


「仕事にしなくていいものなんてないですよ。残業に関しては普通の会社なら賃金発生しますし、サービス残業はしたくなかったら定時で帰ればいいんですよ。」

十夜はのように言った。


「…でも、周りは…」

亮一はあの日、小柳と課長とした会話。そして守田さんを思い出していた。


「周りってなんですか?」


「だから…、同僚とか上司とか…」


「あぁ~、まぁ確かに色々言ってくる人もいますよね。オレは気にしないタイプなんで平気ですけど。」

そう話すとさっき店主がもってきたカフェオレを飲んだ。


「気にしないか…羨ましいです。」

ハハハっと小さく笑いながら亮一は言った。


そんな姿をみて、十夜は聞いた。

「山本さんは何がそんなに気になるんです?他人の気持ちなんて操作できないんですよ。」


「俺は……どうやっても他人の評価が気になる…、嫌われたくない…」

言葉にしたとたん、自分自身が弱くとても情けない男に感じた。

しかも、年下の相手にこんな風に吐露とろしてしまうなんて。


(あぁ…最悪だ…どうしてこんな…)




「山本さん。」







「心の尺度ものさしって人それぞれ違うんですよ。」





亮一の様子をみて、優しい声で十夜が言った。

「心のありかたは、みんな全然ちがうんです。親切にされた時、意地悪された時、怒られた時、優しくされた時…その都度、どう感じるかはその人の心次第。

親切にされても、それを迷惑だと感じる人もいるし、怒られて、反省する人もいれば、自分は悪くないって開き直る人もいる。

人の心っていうのはそのくらい複雑だし、不鮮明なものなんですよ。」



「わかってるよ…そのくらい…。」

小さな声で亮一は言った。


そう。頭ではわかってる。わかってはいるがどうしても気にしてしまうのだ。自分だってこんなふうに生きていたくはない。それでも思うようにいかないこともある。

だから苦しいんだ……



亮一と十夜の間に出会ってからはじめて沈黙がおとずれた。








その時。


「少し甘いものでもどうぞ。」

そう言ったのは店主だった。そして亮一と十夜の前にはケーキが置かれた。


「お!ラッキー!」

さっきまでの真剣な顔が嘘じゃないかと思うほど、顔を輝かせて十夜はケーキを頬張った。


普段甘いものはあまり食べない亮一だったが、この時食べたケーキの甘さは優しく、強ばった心と体に染み込んだ。





第6章 おわり

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