第5話 コミュニケーション

「あの、俺そろそろ失礼します。」

亮一は席を立とうとする。


「えっ!?せっかく知り合えたのに!!もう少し喋りましょうよ。」

と隣の客はニコニコと話しかけてきた。


(どうもこのタイプは苦手だ)

そう感じながらも断れないタイプの亮一は、

乾いた笑顔で、その場を濁すしかできなかった。


「オレ、北条 十夜っていいます。とうやって呼んで下さい。」

まるで、ホストのような自己紹介をしてきた十夜に、さらに苦手意識を強めた亮一だったが、体に染み付いた営業スキルのせいで作りたくもない

笑顔をはりつけながら、

「俺は、山本 亮一 好きに呼んで下さい。」

と仕事の時と同じように返してしまった。


「山本さんですね。よろしくお願いします!あ、ちなみにオレは26才なんですけど、山本さんは、何歳なんですか?」


好きに呼んで下さいと言ったものの、目の前の若者が何と呼ぶか少しだけ不安だった亮一。だが、十夜は意外にも普通に名字にさん付けだった。

その事にひとまずは安堵した亮一は、十夜の年齢にほんの少し驚いていた。

後輩の小柳の1つ上というだけなのに、十夜は凄く落ち着いてみえる。


「俺は32です。」


「オレより年上じゃないですか!それならタメ口でいいですよ!」


「いやぁ、ですが…」

いくら本人が良いと言ったからといっても初対面の相手にいきなりタメ口で話せるほどのフレンドリー感を亮一はもちあわせていない。

苦笑いをしながら少し困った様子をみせた亮一に十夜はすぐさま、

「あ、オレ、馴れ馴れしすぎました?よく言われるんですよね。なんかすみません。」

と、声のトーンをおとし落ち着いて言った。


(気をつかわせてしまった…)


やはり小柳とは違い十夜は相手の様子をよく見て話をするタイプだ。

そんな姿に亮一はちょとだけ警戒心を緩めた。

「いえ、大丈夫ですよ。なんて言うか、俺がおカタイ人間なだけなんで。営業やってるのにユーモアにかけるんですよね。」

と、言い終えた瞬間に後悔した。


(いきなり自虐的な事をしかも初対面の相手に言うなんて、1番リアクションに困るじゃないか。)

そんな風に思っていると、


「へー!営業マンですか!どーりで身だしなみが完璧な訳だ!」

と何故か身なりを誉めてきた。


(この人本当にホストか何かじゃ?)

と思いながらも身なりを誉められた事は素直に嬉しかった。


「完璧だなんて、そんな。仕事行くつもりで準備してて……………あっ…」

こんなのサボったと言ったようなものだ。

亮一はしまったと思ったが、取り繕うのも違う気がしていた。


「あ~、ありますよね。準備するだけして、結局行きたくなくなる時!なんなんですかねあれ~」

と笑いながら十夜は言った。




第5章 終わり













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