第4話 出会い

カラン、カラン~


「いらっしゃいませ。」


喫茶店のドアを開くと、コーヒーの良い香りと落ち着いた声の年配の男性が出迎えてくれた。


「お好きな席へどうぞ」


店内は平日ということもあり人がいなかった。そんな店内で1人テーブル席に行く気にもなれず、亮一はカウンターの隅の席へ座った。


メニューを見ていると、店の店主であろうさっきの男性がお冷やをもって、声をかけてきた。


「お決まりですか?」


「じゃあ、ホットコーヒーを」


「かしこまりました。」


お冷やを置くと、店主はサッとカウンターの中央へもどり亮一が注文したホットコーヒーを作りはじめた。



店内はいい音量で流れるBGM。コーヒーの香りで満ちていた。そんなお店の雰囲気がなんとも心を落ち着かせてくれる。


(静かだな…)


亮一にはBGMも、店主がコーヒーを作る音も聞こえているのに、何故だかそう感じていた。









 カラン、カラン~


そんな静かな空気を変えるかのように、ドアベルがなった。


「おはようー」


そう言いながら店に入ってきたのは、お洒落だが落ち着いた雰囲気の格好をした若い男だった。

その男は常連なのだろう、迷うことなくカウンターの中央、店主の目の前の席に座った。


「おはよう。注文は?」

店主が聞くと、

「んー、いつものカフェオレ。」

そう答えると、離れた場所に座る亮一を気にとめることもなく、店主に世間話をはじめた。



一方、亮一は急に現れたその客に対して何故か緊張していた。

正しくはその客がいる、右半分が緊張していた。


(コーヒーを飲んだら出よう)

そう考えていると注文したコーヒーを店主がもってきた。

「お待たせしました。」

一言だけ言うと店主はまたカウンターの中央へ戻って行く。


鼻をくすぐる、コーヒーの香り。本当ならゆっくり味わいたかった。だが、どうにもさっき、入ってきた客の存在が気になってしかたなかった。

亮一がソワソワしながら、コーヒーを口にしたその時だった。



「今日オレ、仕事サボったんだよねー。」

となんともタイムリーな話題を客の男は店主になげかけた。

それを耳にした瞬間、ドキリとした亮一は、動揺からコーヒーでむせてしまった。


「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ」

慌てて口を覆うとしたがそのせいで、手がカップにあたりガチャンと大きな音をたてた。

店主と客の視線が刺さる。


「大丈夫ですか!?」

店主がおしぼりを持ってきてくれた。


「ゴホッ!すっすみませんっっ、」

おしぼりを受けとったところで、やっと咳も落ち着いた。


ふぅ~と呼吸を整えたところで、さっきまで離れていたはずの客が1席ぶんあけて隣に座っているのに気がついた。


「あ、すみません。お騒がせして」

亮一は不快にさせたかと、軽く頭をさげた。

だが、彼は怒る様子はみせず、ただ一言。


「もしかして、貴方もサボりですか?」 


突然の質問に面食らっていると、店主が慌てて、「こらっ、失礼だろ!」と彼に注意したが、彼はおかまいなしだった。


「え、あぁ~いやぁ…」

いきなり図星をつかれた亮一はなんとも歯切れの悪い返事しかできないでいると、


「わかります!仕事に行きたくない日もありますよね~」


と、彼は何故か嬉しそうに1人で納得していた。





第4章 終わり













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