第3話 初めて会社を休んだ日

「はい、今日はお休みさせていただきます。」


ケータイとにらみ合いをする事さらに5分。亮一はやっと休む決意を会社に連絡した。

1度は行かなければ!と考えたのだが、心と体は拒否し続けたのだ。


「ハァァぁぁ……」

狭い部屋に大きなため息が響く。

休みをもらうだけで、何かひと仕事終えたかのようだ。


(今頃、小柳と課長なんか言ってんのかな)


守田さんのズル休みの会話から2ヶ月たっていた。あの後、結局亮一は守田さんに休みについての意見を言うことはできなかった。

仕事が忙しかったのもあるが、自分でもなんと言っていいものか悩んでいたのだ。


(あの時、守田さんに余計なこと言わなくて正解だったな)

ハハッと小さく笑うと、亮一は手元にあったケータイに目をやった。




最近はテレビもほとんど観なくなった。暇な時はもっぱらケータイばかりだ。この小さな箱は色んな情報で溢れている。

だか、亮一はSNSの類いはほとんどやってない。もともと面倒くさがりな性格で、いくつか挑戦してみたが長くは続かなかったのだ。


(なんか面白いことはないか…)

やっとの思いで休みをとったのだ。何か気分転換になるような事をしたい。

そう思いながら、ケータイの画面をスクロールしていく。


(あ……ここ…)


手をとめると画面には穴場の喫茶店と言う題名のブログに感じの良い店がアップされていた。


(えっと、住所は…)


店の住所をみると、亮一の家の最寄り駅から一駅先だということがわかった。

(…せっかくだし、行ってみよう。)


どちらかというと出不精な性格の亮一だったが、今日はどうしても家にいる気にならなかった。1人でいると会社を休んだ罪悪感から余計な事を色々考えてしまうからだ。


「とりあえず、着替えるか」


もともと仕事に行く為に身支度は整えたがさすがにスーツで歩きまわるわけにもいかない。サッと私服に着替えると亮一はケータイと財布をポケットに入れ、ワンルームの部屋をでた。











ざわざわざわっ…


平日の通勤ラッシュを越えた時間帯とはいえまだ駅周辺は人が多い。

最寄り駅から目的の駅へ降りた亮一はまたケータイをみる。


(えっと、たしかここから…)


たった一駅先とはいえ、亮一にとっては初めての場所だ。あの喫茶店もここからどちらに向かえばいいのかもわからない。

こういうとき、ケータイは本当に便利だ。

ナビを片手に亮一は目的の喫茶店へ歩きだした。





駅から結構歩いた気がする。

だが、一向に着く気配がない。


(おかしいなぁ、この辺のはず…)

地図アプリには亮一が立っている辺りに道がある。だが亮一はその道を見つけることができずにいた。




(まさか、これか?)

しばらくその辺をウロウロしていた亮一だったが、1本の細い隙間を見つけた。いや、最初から気がついてはいたが、"道"とは認識していなかった。


そこは、ビルとビルの間。到底道とはいえない隙間があった。


(これ、通れるか?)

人の目も気にはなったがやっと見つた"道"だ亮一は少し体を横にして、その"道"を進んだ。



(へぇ、まるで別世界だな)


やっとの思いで抜けた先は、人通りがほとんどなく、静かな空気が漂っていた。

その空気に少しホッとした亮一の目の先に、目的地だったあの店の看板が見えたのだ。



「やっと着いた」

ため息混じりに言うと亮一は喫茶店へとむかった。





第3章 終わり

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