第2話 会社を休むということは…
「山本!今日守田、休みだそうだ。」
亮一に声をかけてきた課長の第一声だった。
「わかりました。」
亮一は課長の方をみて、抑揚のない声で返事をした。
守田さんは、亮一の同僚で2つ下。ただ同僚と言ってもそこまで親しくはない。
守田さんはいわゆる、一匹オオカミ的なところがある人で、常に周りと少し距離をおいて仕事をしている。
「また、守田さん休みっすか?」
そう声をかけてきたのは、隣のデスクの
小柳 侑希 25才。今風な感じの後輩だ。
「てか、守田さん、先月も休んでませんでしたぁ?しかも、急な休みで。」
(そうだったか?…)
亮一は少し考えてから、
「まー、仕方ないんじゃないか。」
と、冷静に返した。そんな亮一に、小柳が不満そうな顔をしながら、
「えー、でも、"絶対"ズル休みですよ!!?
だって、あのひとっ…」
守田さんの休みが"絶対"ズル休みだという根拠をあげようと息巻いて話そうとする小柳。そんな後輩をチラリとみると、
「いや、"絶対"だとは言い切れないだろ?」
と、少し苦笑いしながら言うと亮一は淡々と目の前の仕事をこなした。
そんな姿に納得いかなかったのか、小柳は向かいに座って仕事をしていた、同僚に声をかけた。
「矢野だって、そう思うだろ!?」
急に話を振られた矢野は少し驚いた様子をみせながらも、
「あ~まぁ、そうだなぁ…」
と興味なさげに答えた。
なんとも気のない返事だったが、肯定的な返事を聞けた小柳は、やっぱり!と言わんが顔で、
「ほら、先輩!矢野もこう言ってるじゃないですか!今度ハッキリ言ったほうがいいですよ!"迷惑"だって!」
(迷、惑…?)
亮一はその言葉になんだか違和感を感じた。
確かに守田さんが、休むことによって仕事が少し増える時もある。だが、それはもともと誰かがやらなけらばならない仕事であって、守田さんが休んだことで、うまれた仕事ではない。そう考えていたからだ。
(………………)
「先輩?」
「……山本さん?」
返事もせずに黙りこんでしまった亮一の顔を不思議そうに、小柳と矢野がみている。
その事にハッと気がつくと、亮一は、
「…ははっ、そうだな、今度守田さんにそれとなく言っておくよ。」
と何故か心にもない返事をしてしまった。
その時、
「さっきからなーに話してんだ?お前ら。
仕事しろよ。」
ふいに、亮一の背後から声がした。課長だ。
「すみま…」
亮一が謝ろうとするより先に小柳が喋りだす。
「課長!ちょうど良いところに!守田さんの話しですよ。あの人が休むせいで皆が迷惑してるんです!だいたい、体調不良でもないのに会社を休むなんてただの"甘え"でしょう!?」
小柳は課長に対して臆する事なく意見を述べる。そんな姿にいつも亮一は心のなかで感心していた。
「あ~守田なぁ、確かにメンタル面弱いとこあるよなぁ」
困った感じで課長が言うと、
「だったら注意してくだよ。課長から言われれば守田さんも少しは真面目に働いてくれるはずです!」
「そうは言ってもなー。このご時世だぞ。パワハラだのなんだのなんて言われたらたまったもんじゃない。」
課長と小柳の会話を聞きながら亮一は、ぼんやりと考えていた。
(守田さん、確かにメンタル弱いとこあるけど、仕事はしっかりこなしてるし、急な残業も文句一つ言わずこなしてるけどなぁ。そんなんじゃダメってことか…?休むことってそんなに悪いことなのか?)
すると突然会話の矛先が亮一にとんできた。
「山本、守田にはお前から言っといてくれよ!」
「え!?あっ、…」
急な展開に返事をしそこねた亮一の顔を課長と小柳がじっとみている。
「わ、わかりました。」
断れない空気感に亮一は、そう返事を返すほかなかった。
(…なんで俺なんだ?)
そうは思ったものの言えるはずもない。そんな気持ちを知ってか知らずか。
「頼んだからな。」
そう一言だけ言うと課長はさっさと自分のデスクに戻っていってしまった。
そして、小柳も、
「先輩!マジでお願いしますよ!」
と言うと外回り行ってきまーすとスッキリした顔でオフィスをでていった。
「ハァァ……」
亮一が大きなため息をつき、矢野の方をみると矢野はもう、自分の仕事に没頭していた。
そんな姿に亮一はまたため息がでた。
第2章 終わり
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