第36話「審議会」
冒険者ギルドから不正な引き抜きを疑われ審議会なるものに出席しなくてはいけなくなってしまった。
仲間達に相談すると、みな憤りを露にしていた。
特に怒っていたのは、【黄金の槍】でNo.2だったアクアさんだ。
「なにが不正な引き抜きだ! あのハゲ、自分の管理が不十分なのを棚に上げ因縁をつけてくるとはっ! 今すぐぶっ飛ばしてくる!」
みんなで止めるのに必死。怒ったアクアさんを宥められたのは、俺が作ったハンバーガーを食べてからだった。
「なんだこれは!? 美味い! 美味すぎる!! おかわりだー!」
新規加入者である元【黄金の槍】メンバー四人組にもご馳走したハンバーガー。これからは、新規加入者には恒例行事的にご馳走しようかな。
「いや~、こんな美味いもんご馳走になって悪いんだが、今回の引き抜きどうのこうのは俺達のせいかもしれん……」
四人組の中でもリーダー的役割を担うケビンさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
なんでも、俺達のクラン【ホワイトカンパニー】に加入出来た日に、【黄金の槍】でそれなりに仲の良かったメンバー達に声をかけていたらしい。
『俺達、雑用係だったエレンが新設したクランに入ったんだ。前のように快適な冒険ライフがこれで再開出来るぜ! 良かったらお前達もどうだ?』
『そりゃあ良い! エレンなら適切な運営が出来るだろう。なんせ、クランの運営はほとんどエレンがやってたからな』
『だろ? 今、冒険者ギルドで募集かけてるみたいだから、応募してみろよ!』
『ああ、他の奴らにも声かけとくぜ!』
とまあ、こんな感じで伝播していったみたいだ。
「本当にすまんっっ! この通りだ!」
「ケビンさんのせいじゃありませんから、頭を上げて下さい」
「だが、きっかけを作ったのは間違いなく俺だし……」
「いや、それでもクランの事を考えて声をかけてくれたんです。まあ、今回はたまたま相手が悪かったと思うしかありません……」
「だな……しかし、今回の件をどうやって切り抜ける?」
「そこはみんなで話し合いましょう。折角これだけの頭数が揃ってきたんです。みんなの脳みそも使わない手はないですよ」
それから俺達は、翌日の審議会までとことん話し合った。ああしようこうしようと議論を重ね。ようやく話が纏まったのは、審議会が始まる一時間前の事だった。
「よし、じゃあこの作戦で行きましょう!」
「「おおっ!」」
みんな目の下に隈をつくり、審議会が開かれる冒険者ギルドへと向かって行く。
今回集まるのは、当事者のバッカスと不正疑惑をかけられた俺。それに俺のクランへ応募した元【黄金の槍】メンバー13名。それと、新規加入者であるケビンさん率いる4名の、合計19名が審議会へと召集されている。
俺とケビンさん達が冒険ギルドへと歩みを進めていると、道の途中から知った顔の者達が1人2人と増えていく。
気がつけば、冒険者ギルドへと到着する頃には18名に増えていた。勿論、増えた人達は今回俺のクランへ応募した元黄金の槍メンバー達。
プラス、後で助っ人として親っさんが合流してくれる事に。そして、来るかは分からないが、最強の助っ人を頼んでいる。その人が来れば、あとはこっちのもんだ。
「ご参集ありがとうございます。それでは、こちらへ」
冒険者ギルドへ到着すると、扉の前で福ギルド長補佐とやらのジュマンが待っていた。ジュマンの案内で通されたのは、冒険者ギルドの隣にある建物。
中は広々としていて、長テーブルが中央を空けるように正方形に配置されている。そしてそこには、腕を組んでふてぶてしい態度で座るバッカスの姿があった。
「よお、エレン」
ニヤついた表情で俺に挨拶をするバッカス。
俺は頭を少し下げてそれに答える。
「なんだよ冷てえじゃねえか。俺の仲間達を奪っておいて随分ふてぶてしいな?」
煽るバッカス。ここで反応しては奴の思うつぼだ。
俺は苛立ちを静めるため椅子へと深く腰掛け、まぶたを閉じ審議会とやらの始まりを待った。
「では、ただいまより審議会を開かせて頂きます。今回進行を務めさせて頂くジュマンでございます。以後お見知りおきを……そして! 今回、審議長を務めて頂くのは、我がギルドの頂点に立つお方――レグルスギルド長でございます!!」
「よろしく」
数分後。準備が整った合図が、ジュマンからもたらされる。審議長を務めるギルド長のレグルスは冒険者の間でも有名な男だ。
元A級冒険者で優男。栗毛でタレ目が特徴的。
齢22の若さでA級冒険者となり、数々の功績を上げたとんでもない人だ。
30半ばとなり引退した今でも、修羅場をくぐり抜けてきた貫禄は健在だと感じる。引退して、ギルドで仕事をするようになってから、たった2年という早さでギルド長となり手腕を振るっているという。
各町に冒険者ギルドの支部はあるが、首都のギルド長というのは特別だ。各ギルドの中でも、首都のギルド長は統括長と呼ばれ、その国の冒険者組合代表的な立場でもある。
統括する立場の首都ギルド長は、いずれ総本山である冒険者ギルド本部の重役へと、のしあがるのだ。
そんな立場の人がこの場をどう仕切るのか、戦々恐々とする。しかも、レグルスさんの功績は聞こえてくるが、その人となりまでは分からない。
「では、それぞれの言い分を聞くとするか」
さっそくレグルスさんからのお達しがきた。
それに我一番で答えたのは、
「じゃあ、俺からだ! こいつは仲間達を不正に勧誘し、俺のクランを乗っ取る気だ!」
ふざけた持論を展開するバッカスだった。
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