第35話「不穏な知らせ」
二人の阿修羅に挟まれ悲劇的な一夜を過ごした翌日。
今後の予定を話し合うため、俺達はクランハウスに集合していた。
「それでは、今後の予定を話す前に、改めて新メンバーを紹介する。こちらが、A級冒険者のアクアさんだ」
「よろしくな」
昨夜の事もあり、険悪なムードかと思われたが、案外そんな事はなかった。
「よろしくっす!」
「アクアさん素敵~!」
「宜しくお願い致します」
なんだかんだ打ち解けている仲間達。リリエッタとアクアさんも、昨夜の内に深く話し合ったお陰で、お互いの誤解も解消され仲良くなっていた。
ただ少し不穏なのは、
『私がつがいを求めた場合、エレンをシェアしてくれないか?』
『シェアですか……考えておきます』
などと相談していた事だ。そういうのは、本人の同意を求めてからにしてくれないかな。まあ、リリエッタがそんな事を許可する訳がないけど。
「さて、俺達も新設から零細クランへとランクアップし、更なる活躍をしていかなければいけない。今、増員の募集もかけているが、雇ったメンバーと既存のメンバーの特徴を鑑みて、パーティーもクエスト毎に組む事になる」
ここまでは、リリエッタ達にも事前に話していたので同意を得ている。
「尚、アクアさんに至ってはA級冒険者という事もあり、俺達の指導や教育を担当してもらう事になる。暫くはパーティーに組み込んでも後ろで俺達を観察してらうので戦闘には参加しない予定だ」
「ピンチの時は助けてくれるっすよね!?」
「ああ、その時は助けてやる。だが、なるべくピンチにならないようアドバイスしていくつもりだ」
マッドに質問にアクアさんが答えてくれた。
堂々とした雰囲気は、さすがA級冒険者だ。
「という訳で、増員のメンバーが決まるまでの間は、俺達でパーティーを組んでどんどんクエストをこなして行こう! 俺達が活躍すれば、それだけ募集に食いつく人も増える筈だ」
「ですね! みんなで頑張りましょう!」
リリエッタがみんなを奮起しようと、立ち上がり拳を突き上げる。
こういう所が本当にありがたい。まさに参謀的な役割で、俺の足りない所を補佐してくれる無くてはならない人材だ。
その後三十分ほど今後の予定を話し合った俺達は、さっそくクエストを受注しに冒険者ギルドへ向かう。
そこでは、思いがけない出来事が待っていた。
「おう、久しぶりだなエレン!」
「あ、あなた方は……」
冒険ギルドで出会ったのは、【黄金の槍】所属の"元"メンバー達だった。
「お久しぶりです……」
「おうよ! そう言えばお前、クランを立ち上げたって聞いたぞ? 募集の紙も見た」
なんだ? バッカスと同じく馬鹿にする気か?
「それで相談なんだがよ……」
「相談? なんです?」
ありゃ? 馬鹿にするような雰囲気はないな。
「俺達も、エレンのクランに入れてくれねえか?」
「えっ、うちのですか!?」
加入を頼んできたのは、四人の元メンバー達。
男二人は【戦士】【弓使い】のジョブ持ちで、女性二人は【魔法使い】【治癒士】のジョブ持ちだ。
元々この四人は仲が良く、バランスも取れたジョブだったのでパーティーの組み込みの時は、同じメンバーに良くしてたっけ。
「ああ、実はよ……エレンが居なくなってからの【黄金の槍】は最悪でよ。クエストの受注管理からパーティー組み、評価の仕組みも全部ごちゃごちゃになっちまった。俺達も全然連携の取れないやつらと組まされて辟易しちまって……」
「もしかして……辞めて来たんですか?」
「その通り! んで、別のクランを探してたら、エレンのクランがメンバー募集の紙を出してるのを見たって訳よ。エレンの管理がなきゃ、気持ち良く冒険出来ねえって骨身に染みた! この通りだ! 俺達を雇ってくれ」
突然の加入願いに驚いて理由を聞いてみると、成る程ねと納得してしまう理由だった。
「分かりました。良いですよ」
「よっしゃ! ありがとなエレン! いや、これからはリーダーって呼ばねえとな!」
急なお願いだったが、思えばこの人達は【黄金の槍】のメンバーの中でも、気さくに俺と話してくれた人達だった。
性格的にも問題ないし、冒険者としても上から二番目のB級ランクで実力も申し分ない。考えてみれば、かなり有能な人材を獲得出来た訳だ。
「では、明日またギルドに来て下さい。その時にクランハウスに案内しますね」
「ああ、あんがとよ!」
明日の待ち合わせをして四人の新規加入者達と別れると、リリエッタ達もあの人達なら仲良くやれそうだと言ってくれた。
アクアさんも、あいつらな問題ないとお墨付きだ。
よっしゃ、棚からぼた餅とはこの事だな。
問題は、引き抜きのような形になってしまった事だ。
バッカスから因縁でも付けられなきゃ良いけど……。
ま、その時はその時だな。
なんたって、こっちにはアクアさんが居るし!
この時は、そう呑気に考えていた俺だったが、この新規加入者をきっかけに、事件が起こるとは思ってもいなかった。
その事件は、二週間後の増員募集の締め切りに行った日に起こった――
「ホワイトカンパニーのリーダー、エレンです。メンバー募集を締め切りたいのですが、応募はありましたか?」
「少々お待ち下さい!」
受付の人が席を立って数分経っても戻って来ない。
あまりにも遅いので少し不安を感じ始めた頃、受付の代わりに俺の元にやって来たのは、眼鏡をかけた真面目そうな男の人だった。
「お待たせして申し訳ありませんでした。私、副ギルド長補佐を務めるジュマンと申します」
「ああ、どうも……」
なんだ副ギルド長補佐って。課長補佐的な役職の人か? そんな人が俺になんのようだよ……。
「エレン様のクランには、ただいま十五名の応募がございます」
「おおっ! そんなにですか!」
俺が素直に喜んでいると、ジュマンさんは眼鏡の下の鋭い瞳で俺をぎろりと一瞥する。
「その内、十三名がA級クラン【黄金の槍】のメンバーだった人達です」
「えっ、それは本当ですか!?」
「ええ、そこで私達は、【黄金の槍】リーダーのバッカス様に事情を聞いた所、エレン様が不正な引き抜きを行っていると伺いました」
「はあ? なんですかそれ!? そんな事してませんよ!」
「そこでバッカス様はこの度、とうギルドに不正審議の申し立てを行いました。私達も、不正の線が濃厚と見て申し立てを受理し、【ホワイトカンパニー】に関わる全ての人を召集し審議致します。つきましては、明後日の昼に審議会を開きますのでご参集下さい」
「わ、分かりました……」
不正? 審議会? 一体、なにが起こってるんだ……。
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