第34話「修羅場」
「いや~、すまんすまん」
ワイバーンを楽々墜撃して来たアクアさんは、全然申し訳なくなさそうに戻ってきた。
「あの~、どうしたんですか急に?」
「ん? いや、なんだか無性に腹が立ってな! そういう時、あるだろ? 女の子の日かもしれんな……」
チラ、チラ、とこちらを伺うアクアさんに、俺はそれ以上の追及はしないでおく事にした。
「はあ、そうですか……とりあえず、村長にクエストクリアの署名を貰って帰りましょうか」
そのまま村長宅に向かい困惑気味の村長から署名を貰って帰る俺達。アクアさんは口笛を鳴らしご機嫌だ。
帰り道も勿論、走竜で帰宅。
一時間もしない内に首都まで帰って来てしまった。
走竜の速さは一回乗ると病み付きになるな。
これはもう馬には乗れそうにない。
馬が自転車だとすると、走竜はバイク。
どっちに乗ると言われたら、バイクに決まってる。
「さあ、冒険も終わったし飲みに行くか!」
「いいっすね!」
アクアさんを先頭に酒場へ向かう。
まあ、労働をねぎらうのは悪い事じゃないしな。
酒場に着くと、アクアさんはポンポン注文をしていく。
え、まだ頼むの? てか、店のメニュー全部頼んじゃったよ……。
「今日は私の驕りだ! どんどん飲んでくれ!」
「エール樽ごとお願いしやす!」
驕りなら話は別ですよ! アクアさんお金持ちだし、遠慮はしないからね! 俺リーダーだし!
「ちょ、リーダー……あんまり調子に乗ると、あの二人に怒られるっすよ?」
「ダイジョブダイジョブ~!」
「なにが大丈夫なんですか?」
「うちらが居ない間に女の人たらしこんでなにしてんだっつうの」
俺の背後に、何かいる。
間違いない。これはリリエッタとサーシャの声だ。
恐る恐る……それはもうゆっくりと振り返ると、居ましたよ険しい顔のお二人が……。
「や、やあリリエッタ! 帰って来てくれて嬉しいよ!」
とりあえず抱きついた。なにもかも有耶無耶にしてしまえと、俺の中の悪魔が言っているんだ!
「それで……その女性は誰なんです?」
なんでそんなに無表情なんですか……。
「エレン、その女性達は私達のクランメンバーか?」
「ええ、そうですけど何か?」
「私はエレンに聞いているんだが」
「それは失礼しました。で、貴女一体誰ですか」
「私はアクア。エレンのボディケアに惚れて【ホワイトカンパニー】に加入した新参者だ」
「ボディケア?」
「ああ、エレンの指は最高なんだ。私のツボにピッタリとはまり、天国へと導いてくれる」
「へ~、そうなんですか。そんなにごっつい体、エレンさんの好みじゃないと思いますけどね」
あ、ちょっとアクアさん!?
その言い方は誤解を生みますよ!
そして、リリエッタ。
そんなに睨んだら可愛い顔が台無しですよ!
「どういう事か説明して貰いましょうか……エレンさん」
「こんな生意気な小娘とどういう関係なんだ……エレン」
うわ~、どうしよう……マッドとサーシャは知らんぷりで飲み始めたし、助けは来ないですよね。
「おいーすっ! お前ら帰って来てたのか!」
「あっ、親っさん!」
丁度良いところに来たぜ親っさん!
て、あれ……首根っこ掴まれてどこに運ばれるのかな?
「人気のない所で話し合いましょうか」
「それが良い」
俺は良くないです。
「どうしたんだあいつ?」
「修羅場ってやつっす」
「ほっとこほっとこ」
つ、冷たいんじゃないかな君達!
リーダーが死んでしまうかもしれないのだよ?
「助けてええええーっっ!!」
数十分後、俺はリリエッタとアクアに挟まれ怒涛の追撃を受けていた。
「なんで女性ばかり増やすのですか?」
「いや、アクアさんは滅茶苦茶強いし……」
「何故こんな生意気な娘を仲間にしている? もしかして弱みでも握られているのか?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「はんっ、私とエレンさんは、深い仲なんです」
「深い仲? まさか"つがい"にしたのか!? こんな生意気な娘をっ!!」
「さっきからなんなんですか貴女!」
「なんなんだはこちらのセリフだ! エレン! 考えなおせ。なんなら私がつがいになっても良いぞ!」
「はぁ? 貴女正気ですか? そんなごっつい体で良く求愛なんて出来ます事」
「なんだと! 貴様表へ出ろ!」
「もう止めてーっっ!! 私を巡って争わないでええーっっ!!」
俺の叫びは誰にも届かなかった……。
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