第22話

「なんでここに……」


 ラヴィの姿を見て、つい呟いてしまった。

 別に未練とかそんなんじゃない。


 なんで振られた筈の男のパーティーに。

 お前はそんなに落ちぶれてしまったのか?

 そんな気持ちが、口から出てしまったのだ。


「ん? ああ、ラヴィの事か。どうやら行く当てもなかったみたいだし、僕が拾って上げたんだ。さすがに他の子達と同格には出来ないけどね」

「ほんとよね~、ブライアン様に振られたクセに後からノコノコやって来て、パーティーに入れて下さいだもの。私達と同じなんてありえないわ」

「まあ良いんじゃんない? 私達がお相手出来ない時に使う肉便器って事で」

「それウケる! 良いね♪ 今度から肉便器ちゃんて呼ばない?」



 なんなんだこの女達。ラヴィ、お前もなんでこんなクソパーティーなんかに……。


 言い返さず黙って下を向く元カノの姿に、何故か心が抉られるような感じがした。


「じゃあ、僕達は行くから。モンスター討伐ご苦労様」

「これでクランとして昇格ね♪」

「私達【ブライアンズ】が歴史に名を残す第一歩だわ」

「ほら、ボサッとしてないで行くわよ"肉便器"」

「は、はい……」


 コイツらパーティーじゃなくてクランだったのか。

 しかも【ブライアンズ】ってなんだよ。

 自己愛の塊みたいで鳥肌立つわ……。


「ご、ごめんね……」


 去り際に謝罪の言葉を残して消えるラヴィ。

 その謝罪はなんの意味だ?

 不甲斐ない姿を晒してごめんなさいって事か?


「クソがっっ!!」


 口から出る暴言を止められなかった。

 なんであんな奴らと。

 この胸糞の悪さは一体なんなんだ。


「なんかムカつく奴らっすね!」

「感じ悪~! ねえエレン、今からボコしに行かない?」


 何かを察したのか、マッドとサーシャがそんな言葉をかけてきた。


「いや、あんな奴らに関わるだけ時間の無駄だ。俺達は俺達のやる事を優先しよう」


 必死に叫びたくなる気持ちを押し殺し、冷静を装っていた。だが、そんなまやかしは彼女には通じなかったみたいだ。


「よしよし。エレンさんには私が居るから大丈夫ですからね……」


 気づけば、リリエッタの胸の中で抱きしめられていた。

 暖かくて凄く心地良い。


 特に何かを聞く訳でもなく、ただ抱きしめてくれたリリエッタ。その優しさが、骨の髄まで染み渡る。


「ありがとう……」

「いつでも頼って下さいね」


 俺はこの時、彼女と一生を添い遂げよう。

 そう決心していた。


 その後俺達は、しっかりと休憩を取り目的地の泉まで一直線に向かう。


 蜘蛛達がうようよしていたであろう広いホールのような空間を抜ければ、泉まで後少しだ。


 一匹残らず駆逐したその空間は、ただひたすら静寂だった。この時だけは――



 それから数時間歩いた頃。泉で水を汲み終えたクズとすれ違ったが、特に争うような事はなかった。


 というか、相手をすると精神に良くないので、


「僕達最高だよね~。君達もそう思わないかい?」


 とか言う妄言を完全無視した。


 姿が見えなくなってからマッドやサーシャが散々クズに対しての暴言を吐きまくっていた。


 多分、俺を気遣っての事。

 本当に、仲間思いな良い奴らだ……。


 そしてようやく、俺達【ホワイトカンパニー】は、目的のダンジョン最新部へと到達する事が出来た。


「すげえっす!」

「なんか神聖な感じ~」

「癒される空間ですね」


 大きさは三メートル四方ぐらいの泉。

 壁から水が涌き出ていて、小さな滝のように見える。


 マイナスイオンってやつ?

 なんか、心が安らぐような感覚だ。


 水筒に泉の水を汲んだ後、自分達もその水を掬って飲んでみた。


「染みるっす~」

「なんか体が回復した気がする~」

「確かに! 疲労感が抜けていきます!」


 んな訳……あるのか?


 気になったので、みんなのステータスを確認してみると、確かに泉の水を飲んだ事で回復している項目があった。


 HPは3~5の回復量。

 SPは2~4の回復量が見られた。


 これは結構凄い効果じゃないか?

 あながち病に効くというのも嘘じゃないな。


 体力と気力が回復すれば、それだけ病に抵抗する力が生まれるんだから。


 という訳で、今度は大量に汲める容器を用意して、このダンジョンにはもう一度来よう。


 自然の天然ポーションなんて貴重なもの見逃せない。


「さて、帰るか」


 目的を達成した俺達は、足並みを揃え泉を後にした。


「帰るのがダルいっす……」

「確かに……エレンおぶって~」

「エレンさんの背中は私のです! 疲れたなら私がおぶりますよ!」

「いや、冗談だっつうの……」


 そんな掛け合いをしながらの帰り道。

 特に何も起こらず、このまま帰れると思っていた。


「きゃああああーっっ!!」


 鼓膜を破らん勢いの悲鳴。

 それは、良く知っている声だった。


「何事だ!?」

「蜘蛛がうじゃうじゃ居た所から聞こえるっす!」

「モンスター!?」

「分かりませんが、緊急事態のようですね!!」


 急いであの広いホールのような空間に向かうと、そこで見た光景は――


「シューッッ!!」


 見たこともないような大きな蜘蛛が、人を喰っている場面だった……。

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