第21話「耐久戦」

「さあ、この局面どう乗り切る?」


 仲間と戦術について相談。

 一人で考えてもしょうがない。


 困った時こそ様々な意見を取り入れ、局面に合った選択をしたい。


 ただ、こういう時に多数決は最悪を生みやすい。


 多数が間違った選択をした時、少数派の意見を出して却下された者の心が大きく離れていくからだ。


「地道に殲滅するっす!」

「マッドが数体釣ってきて、うちが突撃して減らす!」

「サーシャが残こしたモンスターは、私が討ち取ります!」


 なるほど、みんな戦う事に関しては全体一致か……。

 俺は帰りたかったんですけどね!

 もうそんな事言えないよね!


「じゃあ……マッドには、入り口付近の蜘蛛を数体釣って来て貰う」

「了解っす!」


「そこで釣れた蜘蛛をサーシャが突撃して減らす」

「任せろっつうの!」


「討ち漏らした蜘蛛は、俺が盾を鳴らして敵意を集め、その隙にリリエッタが処理」

「頑張ります!」



「その間、もし他の蜘蛛が現れた時に備えサーシャとマッドが警戒態勢を取る。これでどうだ?」


 よし、みんな頷いてるな。

 とりあえず作戦は決まった。


 これこそP《計画》D《行動》C《評価》A《改善》が試されるな。


 計画を決め、行動し、それが正しいか評価。


 その中で改善する内容があれば、次の計画に改善要項を盛り込んで行動。そして評価して改善のループ。


 さて、先ずは行動してみないと始まらない。


「よっしゃ! みんなやるぞ!」


 俺の合図で右手を胸に当て背筋を伸ばす仲間達。

 何か選択をして行動する時にするポーズだ。


 最初に行動する時に、全員が同じポーズをすれば連携が深まるような気がして決めたポーズ。


 そうだよ? 前世のアニメに影響されました。

 という訳で、蜘蛛軍団とバトルスタートだ!


 最初はマッドの出番。


 洞窟の細道からホールのような場所へ駆け、入り口付近の蜘蛛数体を釣って来る役だ。


 身のこなしが軽く、素早いマッドならではの役。

 大丈夫。あいつなら上手くやってくれる筈だ。


 そう信じ少し待つと、マッドが血相かいて戻って来る姿が視界に入ってきた。


「つ、つ、連れて来たっすっっ!!」


 マッドの直ぐ後ろには、体長1メートル程の蜘蛛4体が、口元の牙をシャキンシャキンと鳴らして、マッドを追いかけている。


 うわ~、この役やらなくて良かった~!

 やれって言われても絶対拒否だね。


「良くやったマッド!」

「次はうちの番だっつうの!」


 マッドがはけると、次はサーシャの出番。

 4体の蜘蛛目掛けて突撃をかます。


「疾風薙ぎっっ!!」


 スキルを使い槍を高速で薙ぎ払う。


 2体の蜘蛛にはクリティカルヒットしたが、残りの2体には素早い動きで避けられてしまった。


「よし! サーシャとマッドは警戒態勢! 後は任せろ!」


 盾を鳴らして残った2体の敵意を集める。

 1体は俺に向かって突撃。

 もう1体は俺の頭上を飛び越えて行ってしまった。


 俺に突撃した1体は、蜘蛛の糸を吐き盾に張り付いた。

 頭上を越えて行ったもう一体の行く末が気になるが、後ろに気を取られれば前方の蜘蛛に殺られる。


 恐らくリリエッタなら問題なく対処してくれるとは思うが、過信は禁物。


 安全に戦えるならそれに越した事はない。

 ここで俺の新スキル【鷹の目】の出番が来たな。


「イーグルアイ! ……リリエッタ! 蜘蛛の糸を吐こうとしてるから左右に避けてから行動しろ! 糸を出してる隙に回り込んで叩き斬れ!!」


 スキルを発動するのに声に出す必要はないのだが、ちょっとかっこつけてみた。


 だってみんなやってるもん。

 サーシャもやってたもん。


 まあ、それは良いとして、俺の新スキル【鷹の目】は、視界を一時的に上空、または上段から見る事が出来る。


 それにより客観的な判断が出来、相手の行動に対して冷静に行動または指示する事が可能。


 一対一の戦いには不向きだが、多数で入り乱れる戦闘時にはかなり役立つスキルだ。


「了解しました! ――そりゃあっっ!!」


 よし、リリエッタが一体を処理してくれた。

 最後は俺だな。


 相変わらず盾に張り付いている蜘蛛を壁際に押し付けた俺は、盾に空いている隙間から剣を突き出し最後の1体を処理した。


「ふ~、第1フェーズ終了だな……」


 油断なく1回目のフェーズを終えた俺達は、改善する所があったか話し合い、次のフェーズへと移行する。


 警戒態勢を取るのは、マッド1人で十分だと分かったので、討ち漏らした敵の処理が遅れた場合に備え、サーシャを後詰めにした。


 こんな感じで改善をしつつ、その後数時間は蜘蛛退治に明け暮れる事に。


 そしてやっと、終わりを迎える。


「もう敵の影は見えないっす! ようやく終わったっす……」

「マジ? やっとおわった~!」

「さすがに堪えましたね……」

「みんなお疲れ様……暫く休憩だ」


 戦闘終了の合図でバッタリと倒れる俺達。

 今回はさすがに疲れたな……。


 まさに耐久戦。

 SPは、ほぼ使い切った状態だった。


 ここから数時間は休まないとSPは回復しない。

 大体、5分で1回復するかな?


 1時間で12回復するので、3時間は休憩してSPの回復に努めたい所だ。


「よし、今から3時間ほど休憩する。その間に夕飯を取ろう」


 SPの回復に時間がかかるため、2回目の食事を取る事にした。そう言えば、今回の戦闘でみんなのレベルが上がった。


 俺は【平社員】15Lv。

 マッドは【盗人】10Lv。

 サーシャは【鉄砲玉】10Lv。

 リリエッタは【影法師】10Lv。


 ステータスもそれなりに上昇したので、頑張って戦って良かったと思う。最初に帰りたいと言ったのは、忘れて下さい。


 そしてなんと、俺のスキルが更に増えていた!

 しかも、初めての攻撃系っぽいスキル。


 早く試したい気持ちに駈られたが、そもそもSPを回復しないと試せるものも試せないので、しっかりと休憩します。


「スープ♪ 干し肉♪」

「どうしたんですか? やけに機嫌が良いですね?」

「なんかキモいっす……」

「疲れ過ぎてラリっちゃったんじゃん?」


 新しいスキルを獲得して浮かれていると、仲間からドン引きされた。


 みんなだって、ちゃんと説明すれば俺の気持ちが分かる筈。新しいゲームを買ったら、早くやりたくなるのが人間の性なのだ。


「うーんとね、実は……」


 俺はルンルンで事情を説明しようとした。

 だが、その時――


「いやー、助かったよ! お陰で気持ち悪い蜘蛛と対峙しなくて済む。ありがとう! ボンクラさん達!」


 そう言って現れたのは、俺の元カノを寝取ったクズ事、イケメン【治療士】だった。


 そして、その後ろには4人の女性達。

 所謂、ハーレムパーティーという奴だ。


 しかもだ、その女性達の中には、ラヴィが居た……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る