第20話「新戦法」

 マッドの【疑惑の目】の効果により、ゴブリンが待ち構えていると分かった所で、俺はミスリルの盾を打ち鳴らす。


 カンカンカンカンッッ。


「「グギァーッッ!」」


 甲高い音に苛立ったゴブリン達が、曲がり角から突撃してきた。


「先陣はうちだっつうの!」


 真っ先に飛び込んだのは、やはりサーシャ。

 さすが【鉄砲玉】なだけある。


「それっ!」


 固有バフ【特攻隊長】により、突撃時の攻撃力と防御力が上昇。その状態で、スキル【疾風薙ぎ】を発動し敵を一蹴するのがサーシャの戦い方だ。


 6体居たゴブリンのうち半分は、サーシャによって討ち取られた。


「よくやった! 次はマッドだ!」

「了解っす!」


 素早い動きで1体のゴブリンへと駆けたマッドは、2本のククリナイフを抜き上段から振り下ろす。


 こん棒を持ったゴブリンはそれを防ごうと構えるが、刃はそこからやってこないぞ?


「グギァッッ……」


 構えていたゴブリンの喉元を、無情に切り裂くククリナイフ。


 マッドのスキル【虚構突き】は、一撃目の攻撃を虚構によって作り出す。


 上段から振り下ろされた一撃はダミーという事だ。

 本当は中段から真っ直ぐ喉元を切り裂いていた。


 これは一撃目という制約付きみたいだが、それでもモンスター相手ならかなり有効に働くスキルだ。


 残りのゴブリンは2体。

 次は、リリエッタの出番だな。


「いけ、リリエッタ!」

「承知しました!」


 背中のクレイモアを抜いたリリエッタが駆けた。


 リリエッタのバフ【陰影の極】は、暗闇での戦闘時に能力が上昇する効果がある。


 その上昇値なんと2倍。これが全ての能力値に効果があるんだから凄まじいバフだ。


 ただ、スキルに移行した【躁鬱の極】の発動条件が今一分からず、確かめられなかった。


 まあ、暗いダンジョンなら、スキル無しに2倍の能力で行動出来る事だけで十分かもな。


「そりゃっ!」


 2体のゴブリンをクレイモアで横薙ぎに寸断。

 まさに瞬殺だった。


「よくやったみんな! この調子でどんどん行くぞ!」


 今回の戦闘で俺の出番は無し。

 うん。指揮がメインだからそれでよし!

 俺の新しいスキルは次の機会にお披露目だな。


 それから数時間ほど何事もなく洞窟を進む。


 途中途中でモンスターとは遭遇したが、どれも単体だったため苦戦する事はなかった。


「ここらで休憩するか」

「うっす! 警戒は任せてくれっす!」

「うちは反対側見とくね~」


 少し広い空間に出た所で食事を取る事に。


 マッドとサーシャに周囲を警戒して貰いつつ、俺とリリエッタは食事の用意をする。


 今回用意した食糧は三食分ほど。昼と夜あれば足りる予定だが、もしもを考えて少し多めに持ってきた。


 荷物はかさ張るが、腹が減って動けなくなるよりはマシだ。


 パンとスープを作り軽めの食事を交代で取る。


 火種は勿論スライムの核なんだが、今回用意したのはちょっと豪華な核。そう、キングスライムの虹色の核だ。


 100年燃え続けると言われているキングスライムの核。

 こういう休憩時の火種には便利かと思い持ってきた。


 売ったら金貨200枚と言われた品。こんな所で使うなと思われそうだが、便利なものは使わないと損だ。


 さて、食事も取り体も休めたので再出発する。


 このダンジョンは一本道なので、迷う事がないのが利点だな。幅10メートルもない道を永遠と進む感じ。


 たまにホールのような広い空間に出たりするが、こういう所はモンスターの巣になってたりする。


「そう言えば、うちのクランってまだメンバー募集すんの?」

「するよ? このクエストをクリアして昇格したら、募集しようと思ってる」

「なら、このクエストが俺達だけの最後のクエストっすね」

「少し寂しい気もしますが、クランなので致し方ないですね……」


 確かに少し寂しいな。パーティーなら固定のメンバーでずっと冒険出来るが、大所帯のクランならそうはいかない。


 それぞれの適正を見極め、様々なパターンでパーティーを組みクエストに送り出す。それがクランだ。


 いっそ、クランなんて辞めて固定パーティーで活動するか? なんて思ったが、一度立ち上げた手前それは出来ない。


 親っさんの好意を踏みにじる事にもなるし。


 まあ、このクエストが俺達だけで組む最後のクエストになるとは限らんし、俺がリーダーのうちは、たまにパーティーを組んでクエストを受ける事にしよう。


 それを仲間に伝えると、みんな喜んでいた。

 本当に俺達は気が合うなと、しみじみ思う光景だ。


 それから他愛もない話をしながらダンジョンを進む。

 すると、マッドが急に立ち止まり制止をかける。


「リーダー! 少し先にモンスターの影が見えるっす」

「この先は確か……」


 洞窟の全容がマッピングされた地図を取り出し、モンスターの気配がするという場所を確認した。大抵のダンジョンは、ギルドで地図が販売されていたりする。


「うらがさっき休憩してたのがこの辺りだから……」

「この先は一番広い空間ですね」

「ああ、この先の空間は、モンスターの巣になりやすいと注意書きがあるな……」


 広い場所ほど危険。

 ダンジョンで注意する点の一つ。


 囲まれてお陀仏なんて事もあるから、最大限の注意をして挑むか。


「マッド、モンスターの数はどのぐらいだ?」


 俺がそう聞くと、マッドはひきつった顔で俺を見つめ口を開いた。


「ヤバイっす……蜘蛛がうじゃうじゃっす。軽く見て100は居るっす……」


 あー、それは聞きたくなかったっす。

 俺、蜘蛛苦手なんだよね……。

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