第19話「いざダンジョンへ」
ああ、どうしよう。一度売った喧嘩を引っ込めるなんてカッコ悪くて出来ないよな……。
しかし、このハゲ強いな~。
今の俺じゃ到底敵いそうにないわ。
しゃあない……大人しくボコられるか。
「俺の仲間を貶すからだ。どうせあんたには敵わない。ほら、やれよ? 俺は抵抗しない」
「テメェ……良い度胸じゃねえか」
歯を食い縛り目を瞑った。
1秒……5秒……10秒……あれ? 殴らないの?
「けっ、お前なんぞ殴っても俺の名誉が傷つくだけだ。精々、仲間達に愛想つかされない事だな【雑用】」
なんて言いながら、立ち去っていくバッカス。何故に殴られずに済んだのか、冷静に辺りを見回してみる。
ああ、成る程……周囲の目か。
向こうはA級クラン【黄金の槍】リーダーとして有名なバッカス。
方や俺は、無名な新設クランのしがないリーダー。
どう見ても弱い者イジメにしか見えないな。
無抵抗の人間を殴る『非道なリーダー』なんて悪名が付いたら、クランの名前にも傷が付く。
それを嫌って手を繋ぐ引っ込めたのか……。
「……助かった~」
「リーダー無茶し過ぎっす!」
「あれ黄金の槍のリーダー、バッカスさんだよね? 無謀過ぎっ!」
「心臓に悪いですよ! 心配したんだから……」
「すまんかった……」
「なんか因縁でもあるんすか?」
「確かに! バッカスさんと何かあったの?」
「気になりますね」
仲間達に詫びを入れると、待っていたのは好奇心という名の追及。まあ、気になるよな……。
クランハウスへ一度帰り、仲間達に事情を話す事になった。
情けない話にはなるが、この仲間達にはありのままの俺を知っていて欲しい。そう思ったからだ。
俺の話を黙って聞いていた仲間達。話終わると、神妙な顔つきだった筈の顔が、ニヤけ出したのが分かった。
「リーダーダサいっす!」
「結局エレンもクビになった追放者じゃーん♪」
なんだこの二人……滅茶苦茶嬉しそうですね。
「でも、彼女居たのは許せないっす! しかも幼馴染とか余計っす!」
マッドの野郎、なんのつもりだっっ。
「い、今はその話は良いだろ!」
「へー、なんか話すと不味い事でも? もしかして、まだ未練があるんですか?」
言わんこっちゃない……真顔で冷淡が、一番怖いんですよリリエッタさん……。
「べ、別にないよっっ」
「では聞かせて頂きましょうか。たっぷりと」
「あ、俺ダンジョンクエストに挑む最終確認しとくっす……」
「う、うちも~。買い忘れとかあるかもだし……」
あっ、ちょ、行くなよお前らっ!
マッドとサーシャに見捨てられた俺は、予想通りこってり搾られました。
「では、行きましょうか」
「はい……」
「約束。忘れないで下さいね?」
「心得ています……」
ラヴィとの馴れ初めを1から10まで吐かされた結果、それ以上の思い出を作るデートを約束させられた。
勿論デートコースを考えるのは俺。
ラヴィと行った所は絶対NG。
だからと言って、リリエッタに合わせて俺が楽しめないのもダメだそうだ。
中々厳しい条件だが、可愛い天使のため精一杯考えようと思います……。
さて、少し横道に逸れてしまったが、いよいよダンジョンに挑む時が来た。
首都デザイアを出て南西に向かった俺達【ホワイトカンパニー】は、10kmほど行った所で歩みを止めた。
丘の傾斜に、ぽっかりと空いた口。
入り口からは、その暗闇の先を見る事は出来ない。
洞窟の前には『泉の洞窟』という立て札。
モンスター注意の文言も添えられている。
「いよいよっす!」
「ま、大丈夫っしょ! ここは低ランクのモンスターしか出ないし♪」
「油断大敵ですよ! 足元を掬われないように気を引き締めて挑みましょう!」
「リリエッタの言う通りだ。危険なのはモンスターだけじゃない。こういう低ランクの洞窟には、盗賊が住み着く恐れもある。どんな危険にも対象出来るよう、危険予知をしながら進むぞ」
目的地は洞窟の最新部にある泉。その泉の水を汲んでくるのが、今回受けたクエストのクリア条件。
洞窟の最新部までは、行き帰りで丸1日という所か。
これでもダンジョンの中では一番浅いというのだから、ダンジョンクエストの難しさを感じさせる。
中には最新部まで数ヶ月掛かるダンジョンもあるという話だ。そんな所、どれだけの準備をして挑むのか想像もつかない……。
まあ、俺達はまずこのダンジョンクエストをクリアして、クランとして認めて貰う所から始めないと。
今回俺達が受けたダンジョンクエストは、町の治療院が常時依頼している常設クエスト。
なんでも、ここの泉の水には、病を和らげる効果があるとかないとか。効果の信頼性は分からないが、誰かが必要としているのは間違いない。
俺達冒険者は、こういう危険な所に誰かが必要としている物が眠っているからこそ、存在しているのかもしれないな。
泉の洞窟へ侵入し、少し進んだ所で松明の準備をする事に。
少し太めの木の枝をそれぞれ用意していた俺達は、割れた先っぽに黒い石のような物をはめ込んだ。
この石ような物は、スライムの核を加工した物。
燃えやすいスライムの核は、こんな風にも使える。
着火も簡単。スライムの核をはめ込んだ木の枝を、洞窟の壁に向かって擦るように当てると、
「よし、火の確保はOKだな」
マッチのように火が着くのだ。
みんなに火を移し、本格的な探索が始まる。
4人で松明を付けると結構明るい。足元も十分見えるし、先の方もそれなりに視界が開ける。
後は、モンスターや盗賊の急襲に備えるだけだ。その点は、頼りになる索敵能力の持ち主がいるから心強い。
「マッド。敵が隠れていたら頼むぞ」
「任せて欲しいっす! もう嘘もつかないっす!」
「声がデカイんだっつうのっ」
「いきなり大声を出すのは止めて下さい」
「す、すまないっす……」
相変わらず怒られてはいるが、マッドの嘘をつくという厄介な点は、ジョブの進化と共に消えていた。
その代わり、ポッケに入れた小銭を良く盗まれる。
たぶん、【盗人】のジョブのせいなんだろうが……。
まあ、変な物を盗んでくるよりはマシなので、ポッケの中の小銭はマッドへのボーナスという扱いにしていた。
しばらく洞窟を進むと、そんなマッドが俺達を止めるように腕を横に開き、歩みを制した。
「そこの曲がり角に6体のゴブリンが待ち構えているっす」
「ほう、ゴブリンか……ダンジョンの定番だな。みんな、戦闘準備だ」
俺の一声でそれぞれ武器を構え、戦闘準備に入る。さて、夜のモンスター討伐に明け暮れた成果を出す時だ。
ゴブリンどもに、新生した俺達の力を、見せてやるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます