第15話「元カノ×今カノ」
リリエッタの調子が悪いので、今日はみんな休息を取る事にした。
折角なので前世の料理で作れそうなのをピックアップし、みんなにご馳走しようと思う。
「これなんか良さそうだ」
「まとめて買ってくれれば安くしとくよ!」
市場に買い出しに来て、お目当ての物を買って行く。
ガヤガヤと活気に満ちた市場。
肉に野菜に魚など、大抵の物が揃っている。
「さて、目当ての物も買えたし帰るか」
「エレン?」
市場を出て帰ろうと思った時、ふいに誰かに声をかけられた。後ろを振り返ると、そこには元恋人のラヴィの姿があった。
「ラヴィ……」
「元気だった?」
今さらなんだ? あんな酷い振り方しといて、良く声なんてかけられるな。
そう思うと、苛立ちを覚えた。でも、なんだか覇気のない顔をしていたのが少し気になってしまったのが、なんか悔しい。
「まあね。そっちは順調なの? 新しい彼と」
ちょっと嫌味っぽい言い方をしてしまい、自分が女々しくて嫌になる。
「う、うん……振られちゃった」
「え? な、なんで」
振られた? こんなに早く?
ああ、だから元気がなかったのか。
「他にも女が沢山いたみたい……私、馬鹿だよね。ちょっとちやほやされたからって、大事な人を裏切って。挙げ句に同じように浮気されて振られるとか……ごめんね、エレン」
そう言って、ラヴィは泣いていた。
可哀想だとは思うが、慰める気なんて毛頭ない。
自業自得だよな?
「しかもね、クランもクビになっちゃった……」
「は? なんだよそれ……」
そこからラヴィは、ポツポツと事情を話し出した。
俺から恋人を寝取ったクズ男は、ラヴィだけではなくクランにいた女性の殆どと関係を持っていたようだ。
それで揉め事になり、クズ男含め関係を持っていた女性達も追放処分となってしまったんだと。
次のクランを探す気力もなく、フラフラとしていたら俺に会ったという訳だ。
「どの面下げてって思うかもしれないけど、一言謝りたくて……本当に、ごめんなさい」
別に謝られてもな。
気持ちは全然スッキリしない。
俺だって、言いたい事言ってなかった。
「俺も言っとく事がある」
「な、なに?」
少し身構えるラヴィ。
罵倒の一つや二つを覚悟しているような表情だ。
「ありがとう」
「……え?」
「母さんが亡くなった時も傍にいてくれた。俺が冒険者なるって田舎を飛び出す時も一緒についてきてくれた。辛い時、悲しい時、楽しい時。色んな思い出を本当にありがとう。ラヴィ」
「ううっっ……わだしっ、本当に馬鹿だった! こんなに優しい人を傷付けて捨てるなんて! ごめんなさい……本当にごめんなさいっっ」
泣き崩れるラヴィ。多分、俺と同じように色んな思い出がフラッシュバックしているんだろう。
でも、時は戻せない。
お互いに、前を向いて進まないといけないんだ。
俺は泣き崩れるラヴィに背を向け歩き出した。
もう振り返る事はないんだと、分かって貰うために。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい、エレンさん!」
クランハウスに帰ると、リリエッタの暖かくなるような笑顔に出迎えて貰った。
「どうしたんですか? なんか元気ないですよ?」
まったく。女性とはどうしてこんなに敏感なのか。
少しの変化でも気付かれてしまう。
「いや、なんでもないよ」
「ふーん……嘘、下手ですね」
「う、嘘なんか……いや、ごめん。実は……」
気付かれてしまっては仕方ない。
というより、聞いて欲しかったのかもしれない。
事情を正直に話すと、リリエッタは少し不満気な顔をした後、俺を抱きしめてくれた。
「元彼女の話なんて聞きたくなかったです。そして、なんかムカつきます! エレンさんをこんな顔にさせるなんて!」
「リリエッタ……なんかごめんな」
俺がそう謝ると、リリエッタは頬を膨らませて怒っている。だけど、突然唇を合わせてきた。
「ふぇっ……?」
「これはお仕置きです!」
これが? こんな素敵なお仕置きなら、悪い事沢山してしまうな。
「それと、今日の夜もお仕置きですからね?」
「夜も? それって……」
「あ、あの……昨日は覚えてくれてないからっっ」
「そ、それはマジで悪かった!」
「初めてだったんですよ?」
「そ、そうだよな……ごめん」
「もう謝るのなしです。だから……今日が初めてだと思って、抱いてくれませんか?」
な、なんて可愛い事をっっ!
男のツボ、押し過ぎですよリリエッタさん!
「何回でも抱く。毎晩抱く。朝昼晩って抱くわ」
「それは抱き過ぎですっっ! 私壊れちゃう……」
ああ、マジで天使だよリリエッタ。
もう、全部嫌な事ぶっ飛んだ。
「我慢出来ないから今から2階行かない?」
「だーめっ。夜までお預けですよ? その代わり……」
二回目のキスは、深くて甘かった。
本当に今まで彼氏が居なかったのかと思う位、男の転がし方が上手。これが天性の小悪魔というやつか?
リリエッタのためなら、悪い事でも平気でしてしまいそうだ。
「ちょっと~! 玄関でイチャつかないでくれる? そういうのは夜にベッドでどうぞ~」
「不純っす! 悔しいっす!」
「早く飯作れ馬鹿たれ」
どうやらリビングまで聞こえていたみたいだ。
恥ずかしさに耳真っ赤で固まる俺達。
二人顔を見合せ苦笑い。でも、どちらかとともなく軽いキスをして、仲間の元に戻って行く。
そんな、幸せな一時だった。
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