第13話「武器完成&新社屋」

「大丈夫かお前? 丸3日叩きっぱなしだぞ……」


 親っさんの心配そうな声。

 ここ3日ろくに睡眠もしてない。


 だってさ、叩く度に製錬度が上がって評価が高くなるんだ。止めらんないよね。


 前世もこういうの好きだったな~。

 ひたすらレベル上げとか苦じゃなかった。


「大丈夫……これ研いだら終わりだから……」


 あ、やばっ……意識が……。


「……はっ!! 今日集合だったっ!!」


 気付いたらベッドの上で寝ていたようだ。

 きっと親っさんが運んでくれたんだろう。


 ここは鍛冶屋の生活スペースである2階だな。

 親っさんとは、良くここで一杯やった。


「起きたか馬鹿たれ」

「あっ、親っさん……俺、どのぐらい寝てた?」


「3時間ぐらいじゃねえか?」

「そっか、今日仲間達と集まる約束だったんだ。早く行かないとっっ」


「なら、これ持ってけ」

「これは……」


 俺がベッドを出てギルドに向かおうとしていると、親っさんから3つの武器を渡された。


「ありがとう親っさん。柄も全部取り付けてくれたんだね……」

「へっ、仕上げはまだまだ任せらんねえからな」


 二本のククリナイフは、ベルト式の革のホルダーに。


 背丈より少し大きいぐらいの槍は、刃先が布で巻いてある。クレイモアは、背中に背負える鞘に納剣された状態だ。


 完成した武器を改めて【評価】してみるか。


《ククリナイフ》

 ・耐久性=99

 ・切れ味=99

 ・製錬度=99

 ・総合評価=S


《ランス》

 ・耐久性=99

 ・切れ味=99

 ・製錬度=99

 ・総合評価=S


《クレイモア》

 ・耐久性=99

 ・切れ味=99

 ・製錬度=99

 ・総合評価=S


 うおっ、俺が最後に見た時は、全部80台で総合評価Aが限界だったのに……。


 さすが親っさん。

 俺が寝ている間に仕上げしてくれてたんだな。


「これで喜んで貰えるよ。本当にありがとう」

「はっ、俺は仕上げしただけだ。それはお前の努力で出来たもんだよ。ほら、仲間が待ってんだろ? 早く行け馬鹿たれ!」

「痛っ! い、行ってくる!」

「ああ、行ってこい! 馬鹿息子が……」


 お尻を叩かれ追い出されるように鍛冶屋を出た俺は、仲間が待っているギルドへ急いで向かった。


 というか――"馬鹿息子"って聞こえた気がして、照れ臭くて走っただけだったりする。



「みんなっ、待たせてごめんっっ」


 ギルドの2階の部屋に急いで飛び込むと、みんな揃っていたが……。


 多分、何時間か待たせてしまったのだろう。

 3人の仲間達は机に突っ伏してお昼寝していた。


 そんな仲間達の前にそれぞれの武器を起こさないようにゆっくり置き、準備を整えた。


「みんなっっ!! おはようっっ!!」

「んあっ!? なんだリーダーっすか……う、うるさいっすよ……」

「うあっ!? もうなに~っっ」

「……あ、エレンさん。おはようございます」


 みんな欠伸をしたり背伸びをしたりして、眠気を覚ましている。


 そんな中、とうとう目の前の武器に気付いてくれた。


「な、なんすかこれ!?」

「なにこれ、槍? ちょーカッコいい」

「これは……クレイモアですか?」

「ああ、これは俺からのボーナスだ」


 みんな目の前の武器を取り感触確かめるように握ったり、刃の状態を確認した後、各々からお礼の言葉を貰った。


「ありがとうっす! すげえ嬉しいっす! 滅茶苦茶格好いいっす!」

「突撃するのに最高だよこの槍っ! まじ感謝! ありがとうエレン!」

「こんな良い物を……本当にありがとうございます! エレンさん……」


 ああ、やっぱり仲間が喜んでくれると嬉しい。

 守りたい、この笑顔。ってな感じだよ。


「でも、こんなに良い物ならお高かったんじゃないですか?」

「ほんとだよっ! 嬉しいけど、無理しなくて良かったのに……」

「俺、こんな高価な物に釣り合うか分かんないっす……」

「変な心配するなよ。安心してくれ、それは俺が造った物だからお金は掛かってないよ。ま、材料代は後で払うけど。それに、みんなの特徴を考えて、選んで造ったから、きっと使いこなせる筈だよ」


 俺の説明に納得してくれた仲間達は、大事そうに新しい武器を装備していた。


 マッドだけは、『器用貧乏とはこの事っすか』とか言ってたので、頭に一発入れといたけどね。


「古い武器は俺に預けてくれ。後でメンテナンスしておく。クランハウスが借りられたら、そこに仕舞っておくから」

「何から何までありがとうございます。それで、そのクランハウスなんですが……」


 リリエッタからもたらされた情報は、とても有益なものだった。


 なんでも、最近解散したクランのクランハウスが格安で売りに出されていたという話だ。


 中も見てきたみたい。広さもそこそこで、2階は寝室が何部屋かあり、そこで寝泊まりも出来るらしい。


 お値段なんと金貨10枚。


 賃貸で借りようかと思っていたので、買える値段で売られているのはありがたい。


 普通、2階建のクランハウスを買うとなったら、金貨100~200枚はする。


 それが金貨10枚で買えるなら滅茶苦茶お得だ。


 ただ、ちょっと曰く付きの物件らしく2階の屋根裏から毎晩物音がするみたい。


 しかもその物件を買ったクランは軒並み解散してるらしく、中々買い手がつかないんだとか。


 話を聞くとちょっとあれだが、お化けなら気にしなければどうって事はないし、クランが解散するのは良くある話だ。


 考えてみてくれ。

 クランは会社みたいなもの。


 経営に失敗すれば資金が底をつき解散だし、色んな人が集まるからトラブルも起きやすい。


 設立したクランが10年生き残る確率は、大体3割~4割と言われている。


 だから多少の曰く付きならどうって事はない。そう考えた俺は、すぐにその物件を買いに行く事に。


 リリエッタに案内して貰った不動産屋で契約を済ませ、金貨10枚を払って鍵と売買契約書を受け取った。



「おおっ、ここが俺達のクランハウスか!」

「広いっす!」

「家具も付いてるし最高♪ このソファふかふか~!」

「ふふ、これで一々ギルドに集まる必要もなくなりましたね♪」


 一階は、半分がリビングとなっており広さは約20帖ほど。もう半分は物置やトイレ、お風呂が完備されている。


 この世界、ちょっと面白いのは、トイレがちゃんと水洗だと言う事だ。


 この世界には天才的な【錬金術師】がいて、その人が画期的な物をどんどん作り出しているんだ。


 水洗トイレもその一つ。しかもその人。知識も凄くて、上下水道の技術なんかもこの世界にもたらしている。


 もしかしたら"転生者"だったりするかもね。

 是非とも会ってみたいもんだ。


「じゃあ俺、専属鍛冶士を連れてくるからみんな宜しく!」


 今日は新しいクランハウスを祝して宴会をしようという事になった。


 リリエッタが得意料理を披露してくれるみたいだから楽しみだ。


 折角だから、親っさんも連れて来ようと思う。みんなには宴会の準備を頼んで、俺は親っさんを迎えにいく。



 鍛冶屋ヘパイトスは、クランハウスから歩いて30分ほど。中に入ると、親っさんが金属を叩く音が聞こえてきた。


「親っさん! 今日は宴会するよ~!」

「あ? 宴会だ? そりゃ良いな」


 親っさんに事の次第を話すと、豪快に一笑いして酒を追加で買って行こうと、意気込んでいた。


 そして出発する直前に、親っさんは一つの装備を俺に手渡した。


「これやるよ」

「これは……盾?」


「他になんに見えんだ馬鹿たれ」

「いや……てかこれ、もしかしてミスリル!?」


 灰色に輝く銀の盾。

 大きさは俺の膝から首下ぐらい。


 真ん中には縦長の穴が空いており、そこから剣を突き立てる事が出来そうだ。


 ミスリルは、武器や防具に使われる鉱石の中でもハイグレードなものだ。


 買ったら金貨5~10枚は下らない高価な装備。

 こんなの、貰っても良いのだろうか……。


「こんな高価なもの貰えないよ……」

「馬鹿たれが! 俺がやるって言ってんだから素直に受け取れ! それに、それは祝いだ」


「祝い?」

「ああ、お前がクランを設立したな。それによ、やった分はしっかり回収してやる! だからお前は、精々クランを盛り上げて俺を儲けさせろっ!」

「ぐふぅぅっっ」


 照れ臭そうに俺のボディーにパンチを入れる親っさん。

 もうなんだかな……ツンデレ親父め。


《ミスリルの盾》

 ・耐久性=99

 ・硬度性=99

 ・製錬度=99

 ・総合評価=S

 ・固有バフ=【対スキル膜】


 やっぱり凄いな親っさんは。俺が行ってる間に、こんな最高レベルの盾を造っちゃうなんて。


 てか、なんで盾? あ、そう言えば昨日聞かれたな。


『お前はどんな戦い方をしていくつもりだ?』

『的確な指示をして、みんなを守りながら戦いたい』


 そんなやり取りがあったっけ。

 そうか。俺の装備を造るために聞いたのか……。

 ちくしょうっ。中々粋な事してくれんじゃんか。


「くそっ……ありがとう親っさん」

「あ? なんだお前、泣いてんのか?」


「泣いてねえ! 目にゴミが入っただけだ!」

「ガハハッ! まあ良い。そんじゃ、宴会とやらに行くか」


 俺と親っさんは、肩を並べてクランハウスへ向かう事に。途中で酒を追加で購入し、一時間ほどで到着した。


 その後は、仲間達に親っさんを紹介し宴会が始まった。

 馬鹿な話をして笑い合い盃を交わす。


 リリエッタの料理も最高だった。

 良いお嫁さんになるんだろうな。


 気の合う仲間や親っさんと飲めて最高に楽しい。

 だから当然、飲み過ぎてしまった。


 ベロベロになり、途中から記憶がない。

 そして、二度目の失敗をする事に……。


「う、いつつ……あれ? ……ま、まじで?」


 二日酔いの頭痛で起きた俺の横には、スヤスヤと眠るリリエッタの姿があった。


 しかも今度は、服を着ていない……。


「嘘だろ……俺、ヤっちゃった? だったらせめて、記憶がある時に体験したかった……」

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