第12話「みんなのジョブスキ」

 さあ、どうだ親っさん……俺の渾身の鍛冶っ!


「けっ、まあまあだなっ!」


 そう言って俺の手に刃を戻す親っさんは、背を向けて何かボツボツと呟いていた。


「たくっ、見ねえ間に成長しやがって……俺が教える事はもうねえじゃねえかっ」

「なんだよ親っさん? ボソボソ何言っての?」


「うるせえっ! 合格だ!」

「ほ、本当に!?」


「嘘なんか吐くか馬鹿野郎っ! 専属契約成立だって言ってんだ!」

「よ、良かった~! い、いつつっ」


 安心したらどっと疲れが出てきた……。

 筋肉がパンパンに腫れて筋肉痛だ。


「親っさん! お祝いに一杯やろうよ」


 おれが酒の小瓶を指差すと、親っさんはガハハと一笑いして頷いた。


 久しぶりに交わす盃。


 親父を赤ん坊の時に亡くしたせいか、親っさんを自分の親父だと勝手に思っていたりする。


「なあ親っさん」

「あ? なんだ真剣な面して」


「俺、親っさんの事、本当の親父だと思ってるんだ。勿論、師匠でもあるけどさ。だからさ……これからも宜しくお願いします」


 俺は親っさんに頭を下げた。今まで面倒見てくれた礼と、これから世話になる礼を込めて。


「馬鹿野郎が……」

「えっ、泣いてんの親っさん」


「泣いてねえわっ! 馬鹿たれが!」

「はは、そうだね」


 なんだ? 歳のせいで涙脆くなったのか?

 まあ良いか。親を泣かせるのが、子供の仕事だし。


 その後は、他愛もない話をしながら親っさんと飲み明かした。


 そして翌日。


 武器造りが終わっていない事もあり、工房で鍛冶の続きをする事にした。


 その前に、仲間達と集まる約束があったのでギルドに向かう。今日は決めないといけない事もあるしね。


「お、みんな来てたか」

「当たり前っす!」

「エレン遅い~」

「お待ちしておりました」


 ギルド2階のいつもの部屋に向かうと、既に仲間達は集まっていた。


「さて、早速なんだが、俺の事情で申し訳ないが、明日から数日間はクラン活動を休みにする。その間は、ソロ活動でもしておいてくれ。くれぐれも安全にな」


 みんなには、武器造りの事はまだ秘密にしている。

 出来たらサプライズしたいからね。


「それと、毎回ここに集まるのも面倒だしお金も掛かるから、そろそろクランハウスを借りようかと思ってる」

「おっ、いよいよ俺達の城っすか!」

「ま、その方が便利だよね~」

「では、要望を教えて頂ければ私達で探しておきます!」

「それは助かるよ。ありがとうリリエッタ」


 リリエッタのありがたいお言葉に甘えるか。


 俺の要望と限界の家賃額を伝え、次集合する時までに探しておいてくれる事になった。


「では本題に入ろう。次のクランクエストは、『ダンジョンに湧き出た湧水を汲んで来い』という、クエストを受けようと思ってる」

「確かそれ、クランの登竜門的な奴っすよね?」


「ああ、このクエストを受けないと、零細クランとしても認めて貰えないと言われている」

「ダンジョンか~。確かに、ダンジョンに潜れないようなクランは使えないって、思われてもしょうがないよね~」


 サーシャの言う通り、このクエストを完遂して始めて、クランだと認識して貰える重要なクエストだ。


「という訳で、その重要クエストに挑む前に色々準備がいる。まずは、俺達の連携を上げる事。次に、ダンジョンで必要なアイテムを揃える事。そして最後に"KYT"を確実に行っておいてくれ」

「けーわいてー? またリーダーが変な事言ってるっす!」

「うち、難しいのは無理だかんね~」

「それはどういった事でしょうか?」


 相変わらず、真面目に質問するのはリリエッタだけだな……。


 リリエッタの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。


「KYTとは『危険予知トレーニング』の略だ。つまり、あらゆる危険を想定し予知する練習をしておいてくれと言う事だ」

「なるほど……暗いダンジョンでは転ぶ可能性が高いからしっかりとしたブーツを履く。とかですか?」


「そうそう! そんな感じで良いんだよ! さすがリリエッタ! チューしてやりたい位だ」

「ありがとうございます! いつでもして良いですよ!」


 ん? いつでもして良い?

 いや、何かの聞き間違いか意味違いだな。


「じゃあ、みんな宜しく頼むぞ。次は3日後、またここで会おう。では解散!」


 解散後、俺は真っ直ぐ親っさんの工房に戻る事にした。

 あっ、因みにみんなの【評価】はこっそりしておいた。


《マッド 24歳 男》

 ・ジョブ【嘘つき】Lv19

 ・HP=75

 ・SP=30

 ・攻撃力=20

 ・防御力=20

 ・素早さ=80

 ・器用さ=40

 ・固有スキル【疑惑の目】



《サーシャ 21歳 女》

 ・ジョブ【無鉄砲】Lv19

 ・HP=90

 ・SP=30

 ・攻撃力=40

 ・防御力=30

 ・素早さ=60

 ・器用さ=30

 ・固有スキル【特攻隊長】



《リリエッタ=バルロン 21歳 女》

 ・ジョブ【躁鬱】Lv19

 ・HP=100

 ・SP=40

 ・攻撃力=40

 ・防御力=40

 ・素早さ=40

 ・器用さ=40

 ・固有バフ【躁鬱の極】


 とまあ、仲間達のステータスはこんな感じだ。

 能力値は、みんなそれぞれの特徴が出ている気がする。


 マッドは、攻撃力と防御力が低い代わりに素早さが高い。スキルも、自分でゲロってくれたから知ってるしな。



 サーシャは、攻撃力と素早さが他の値より少し高い。

 そしてなにより、【特攻隊長】というスキルがまた【無鉄砲】らしさを増している。


 恐らく特攻時の攻撃力が上がるとかか?

 連携確認時に確かめてみよう。


 リリエッタは、バランスが良い能力値だな。

 だけど、他の二人と違いスキルは無し。

 その代わり固有バフを持っているな。


 それにしてもなんだよ【躁鬱の極】って……。


 なんか不穏なバフだが、状態系のバフが"躁鬱時"に何か関わってるのかも。これも連携確認時に確かめよう。


 とりあえず仲間達のステータスも分かったし、俺達の戦い方を考えながら武器造りに没頭するか。


 便利な【評価】スキル。

 もしかしてこれ最強じゃね?


 だってさ、人でもモンスターでも、相手の能力とスキルが分かれば超有利じゃん。


 それに対して策を練れるし、安全性が抜群に上がる。

 もし敵わない相手だと分かれば、すぐ逃げれるしね。


 ヘンテコジョブの俺達は、一体どうなる事かと思っていたが、こりゃあ、希望が見えてきた。


 もしかしたら、みんなのジョブも進化して、凄く強くなるかもしれない。


 そんな希望に、胸を躍らせていた。

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