第11話「俺のジョブが……」

「どうだ? 準備出来たか」

「うっす」


 久しぶりだな、この感覚……。

 燃える"かまど"の前で材料を入れる。

 鋼の塊が、かまどの中で熱を帯び真っ赤に光っていた。


「で、何を造る」


 親っさんにそう聞かれ少し考えた。


 マッドには、その身のこなしを活かした武器だな。


 刃先がくの字に曲がっている"ククリナイフ"なんて良いかもしれない。


 サーシャは、あの無鉄砲からの突撃が難題だから……リーチの取れる槍なんて良いかも。


 リリエッタは鬱状態からの無双が強い。


 躁状態の時にひたすら剣を振って鍛えているみたいだから、重い武器も軽々振り回してくれるだろう。


 よし、さすがにツーハンデットは無理があるから"クレイモア"あたりにしておくか。


 仲間達の武器が決まった所で、熱々の鋼の塊をかまどから取り出して親っさんに告げる。


「ククリナイフと槍とクレイモアにします」

「そうか。なら出来たら呼べ」


 親っさんは椅子に座ると、パイプと酒の小瓶を取り出して長丁場に備え出した。


 3つの武器となると、今日1日で終わらないかもな。


 真っ赤に燃え滾った鋼の塊を、ハンマーで叩き製錬していく。何度も何度も叩いて、またかまどで熱する作業を繰り返す。


 数時間後、ようやく1つの武器の原型が完成した。


「ふ~、汗だく……やっぱり親っさんはすげぇよ」

「すげえのは分かってるよ。で、出来たか? それがお前の最高傑作か? 提出するなら早くしろよ」


 そう急かされ、出来上がった武器の刃を入念に確認した。出来は良い筈。だけど、今一自信がない。


 本当に、これを親っさんに見せるべきか。


 前も思ったが、こんな時に物の本質が分かるスキルでもあれば助かるのに……。


 例えば、鑑定とか見破る的な? そうそう、


《ククリナイフの刃》

 ・耐久性=5

 ・切れ味=6

 ・製錬度=15

 ・総合評価=E


 ステータス画面みたいなのが横に出てきて、こんな感じで評価が分かれば最高だよね。


 ん? 幻覚?


 ああ、後、自分の評価も分かれば絶対役に立つよね。


《エレン 20歳 男》


 ・ジョブ【平社員】Lv1

 ・HP=90

 ・SP=50

 ・攻撃力=25

 ・防御力=30

 ・素早さ=30

 ・器用さ=100

 ・固有スキル【同時進行】【評価】


 そうだよ。こんなに目の前にステータス画面が出て、自分の能力が分かれば良いのにな~。


「……てっ! 見えてるんですけど!?」

「なんだようるせえな!」


 ええ、ちょっと待って。

 なんで見えたの? ステータス画面……。


 気が狂ったのかと思った俺は、その後何回か武器と自分のステータス画面を出現させては消してを繰り返した。


「本当に見えるんだ……すげえよ親っさん! 俺すげえよ!」

「だからうるせえっ! 一体なんなんだお前は……それで、武器を提出するか決まったのか」


 あ、そうだった。

 あまりの衝撃で武器を提出するか決めてなかった。


 ふー、とりあえず一度落ち着こう。


 多分、いきなり"評価"画面みたいなのが見えるようになったのは、固有スキル【評価】のお陰かもしれない。


 前にジョブ神殿で確認した時は、そんな天啓を受けなかった。一体何故か。それは恐らく、俺のジョブに関係してるくさい。


 だって、【雑用】から【平社員】に変わってるんだもん。なにこれ……進化したって事?


 アルバイトから社員的な感じか?

 前世で過労死した時と同じランクとか皮肉だな。


 まあ、何はともあれ、ジョブが進化したのは事実だ。

 それによってスキルが増えた事も。


 しかも【評価】めっちゃ便利!

 これはゲームや漫画で言う"鑑定"と同じっぽい。

 これ、他の人のステータスも分かるのかな?


 そう思った俺は、試しに親っさんに向かって【評価】を使ってみた。


《ベルード 45歳 男》

 ・ジョブ【凄腕鍛冶士】Lv38

 ・HP=240

 ・SP=90

 ・攻撃力=120

 ・防御力=120

 ・素早さ=25

 ・器用さ=250

 ・固有スキル【青い炎】【力加減】

 ・固有バフ【聖錬の一魂】


 おおっ、親っさん強っ!

 スキルも、なんか格好いいのがある。


 青い炎は、鍛冶に必要な灼熱の炎を出せるのかな。


 あ、そう言えば、親っさんいつも自分でかまどに火を入れてた。炎系のスキル持ちだって事は分かってたけど、青い炎とはね。


 どうりで、親っさんがくべる炎は滅茶苦茶熱い訳だ。

 力加減は言葉の通りだろう。


 材料をハンマーで叩く時や、俺にボディーを入れる時に使ってるような気がする。


 てか、固有バフってのもあるんだな。

 ジョブによって、永続的にかかるバフがあるのかも。


 俺にはなかったけどね……。

 親っさんズルい。


「なあ、親っさん。青い炎と手加減のスキルはいつ使ってるの?」

「あ? なんで俺が、そのスキルを持ってるって分かる……俺は誰にも言ってねえぞっっ」


 うん、どうやら評価の情報は正しいみたいだ。


「聖錬の一魂っていうバフはどういう効果なの?」

「なんだそりゃ? そんなの知らんぞ」


 成る程。バフについては知らないのか。


 という事は、バフの情報はジョブ神殿でも分からない可能性があるな……。


 そこは後で、詳しく調べてみよう。


 とりあえず今は、武器を製錬し直して総合評価を上げてみるか。


「親っさん。もう一度、製錬し直してみる」

「あ? ああ……それは良いが、さっきのはなんなんだ?

 気持ち悪いぞお前」


 造った武器の評価が分かるという事は、何度も製錬して一番高い評価の物を提出出来る。


 やっぱり、今回の評価は今一だったみたいだし、納得がいくまで製錬してやる!


 その後俺は、何度も製錬を繰り返した。

 日も暮れ、夜遅くなるまでひたすらに。


 そしてようやく――



《ククリナイフの刃》

 ・耐久性=50

 ・切れ味=55

 ・製錬度=80

 ・総合評価=A


 納得のいく物が出来た。


 というか、もう限界。腕は疲労で上がらないし、ずっと火の前にいたから体もぐったり。


 ここまで出来たのも、奇跡に近いような気がする。


「親っさん……親っさん!」

「……あん? ようやくか」


 鼻ちょうちん作って寝てやがったな……。

 俺が必死に製錬してる時に!

 こうなったら、目にもの見してやる。


「どうだ! これが俺の最高傑作だ!」


 何度も叩き直した渾身のククリナイフの刃は、鏡にも使えそうなほど光り輝いていた。


 切れ味抜群で、空中に放り投げた髪の毛一歩でもスパッと真っ二つに出来る。


 俺は親っさんにククリナイフの刃を差し出し、評価を待った。


「ほう、これは……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る