第10話「黄金の錆」
色々問題点が見つかった護衛クエストから数日後。
ダンジョンに挑むという新たな目標を定めた俺達【ホワイトカンパニー】は、その目標に向かって準備をする事にした。
先ずは第一段階として、武器の見直しを図るために知り合いの鍛冶屋へ単独で向かっている。
仲間達は本日お休み。
休暇を与えるのも、リーダーの仕事だからね。
マルセリア城を見上げる城下町の西側には、至る所からモクモクとした煙を出す工房エリアがある。
俺は今、そこを歩いていた。
工房エリアをしばらく歩くと、ひっそりと店を構える赤い看板が目印の鍛冶屋"ヘパイスト"が見えてきた。
ここの親父は変わっているが仕事は真面目で丁寧。
【黄金の槍】にいた時にも交流があった。
というか、ここの鍛冶屋は【黄金の槍】の専属鍛冶屋だったりする……。
なんでまたそんな所を訪れたのかと言うと――
「久しぶり親っさん!」
「おお、エレンじゃねえか! 久しぶりじゃねえよ馬鹿たれ!」
「うぐっっ」
会うなり俺の腹に一発入れる親っさん。
俺の首下ぐらいの身長しかないから、ボディーが一番狙いやすいらしい……。
筋骨隆々の体とモジャモジャの髭。
親っさんは所謂、ドワーフというやつだ。
「痛いよ親っさん……」
「うるせえっ、知らねえ間にクランから居なくなりやがって! クビだかなんだかどうでも良いけどよ! お前が手伝いに来ねえから、大変だったぜまったく」
雑用係として働いていた時は、親っさんの鍛冶屋を手伝う仕事もしていた。
だからなのか、俺は結構気に入られている?
最初は驚くほどの怒号が飛んでいたが、仕事を覚える内に認めてくれるようになったんだ。
だから、嫌な思い出の【黄金の槍】と繋がっている此処にも来れた。
「あ、やっぱりクビになったのは聞いてたんだ……」
「ああ、バッカスの野郎がお前をクビにしたから手伝いは出せねえとか言いやがってよ。今まで格安で世話してやってたのにとんだ恩知らずだ! だからよ、専属契約解除してやったぜ」
そう言って、ガハハと豪快に笑う親っさん。
「豪快なのは知ってるけど、相変わらずやる事が1か0だね……」
「あ? それだけじゃねえよ。あのクランはダメだ。その内落ちぶれて解体が関の山だぞ?」
A級クランの【黄金の槍】が落ちぶれる?
そんな事あるのか?
「なんかあったの?」
「なんかって……お前が居なくなったからだよ! 馬鹿たれっ!」
「ぐへっっ」
一々ボディーを攻めないで欲しい。それにしても、俺がいなくなったからとは、一体どういう事だ?
たかが雑用係が1人いなくなった所で、A級クランがそんな簡単に落ちぶれる筈ないよな。
気になった俺は、詳しい話を親っさんに聞いてみる事にした。
「ちゃんと教えてよ親っさん……」
「たく、しゃあねえな! そこ座れ!」
鍛冶工房の慣れ浸しんだ木を切った後の幹みたいな石の腰掛けに座った俺と親っさん。
パイプを咥え、目付きの悪い顔で俺を見る親っさんは、煙を一吹きした後、事の次第をゆっくりと話し出した。
「あれは数日前の事だ。黄金の槍に頼まれてた武器と防具をクランハウスに届けに行った俺が見たのは、今にも喧嘩しそうなピリピリとした雰囲気を出してた奴ら」
「へー、喧嘩なんて珍しいね」
「俺も最初はそう思った。だが、よくよく聞き耳を立ててみるとよ……」
少し間を置いて語り出した親っさんの話は、驚くべき内容だった。
なんでも、俺が居なくなってからの黄金の槍は、雑用を上手くこなせる人がいなくて少しずつ険悪になっていったらしい。
それもそうか。今まで俺1人で全部雑用をこなしていたから、黄金の槍のメンバーは、武器のメンテナンスさえろくに出来る人がいなかったからね。
他にも、洗濯だのアイテムの買い出しや皆の給料計算。
それに親っさんの手伝いもして、その他もろもろ全部1人でやってたんだ。
今考えると、同時進行のスキルがなかったら絶望的な仕事量だな。
危ない所だった。前世でも社畜として過労死したっていうのに、今世でも過労死する所だったのか……。
そう考えると、逆にクビにされて良かったな。
今は自分のクランをどう軌道に乗せるか考えるのが楽しいし、最高の仲間にも出会えた。
なんてたって、リリエッタとサーシャ可愛いし!
マッドは……まあ、可愛い後輩だ。歳上だけど。
ああ、そう。話を戻すけど、貴重でスーパーな雑用係を失った黄金の槍には、錆びがジワジワ出ているみたいだ。
新しく雇った元冒険者の女性も、あまりの仕事量に即効辞めて行ったらしい。そりゃそうだよね……。
そして、俺が居なくなった事で一番影響が大きかったのは、稼ぎ頭の【竜騎士】ジョブの人が辞めた事らしいよ。
『あんなに最高の裏方をクビにするクランに要はない。あいつが武器をメンテナンスしてくれたお陰で、俺の槍は錆びないで最高の切れ味を保っていた。それが期待出来ないなら辞める』
そう言って、本当に辞めてしまったという話だ。
なんか嬉しいよね。
そんな事言ってくれる人がいたなんて……。
黄金の槍が錆び始めたという話を聞いた俺は、少し胸の支えが取れたような気がしていた。
なにより喜ばしいのは、親っさんが専属を解消した事で、俺の頼みが聞いて貰える確率が上がった事だ。
「親っさんがフリーになってくれて良かった!」
「良くねえよ馬鹿たれ! そのせいで経営が苦しくなるだろうが阿保!」
「ならさ、俺のクランと契約しない? 専属で……」
「はあ? お前、クランを立ち上げたのか」
「うん! まだ俺含めて4人の弱小新設クランだけどね……」
「そうか。お前がクランリーダーか!」
何故か豪快に笑う親っさん。
やっぱり、俺がリーダーって似合わないよな……。
「ふん、どうせヘボなリーダーですよ……」
「そんな事言ってると、契約しねえぞ馬鹿野郎っ!」
「ぐえっっ、いつつ……ちょっと待って、今なんて言ったの!?」
「専属契約してやるよ。お前のクランと」
ま、まじかっ!? まさか一発OKだとは思わなかった!
「ただし、俺が納得出来たらな」
「納得? 何を?」
「クランに加入してくれた仲間に、最初に預ける武器を頼みてえんだろ?」
「さすが親っさん。俺の事分かってるね……」
「ふん……これでも俺は、お前の事を認めてるからな。だからよ。最初に預ける武器は――お前が作れ! それの出来次第で契約するか決める」
「えっ、俺が!?」
親っさんを納得させる武器を俺が?
なんちゅう無理難題を吹っ掛けるんだこの親父……。
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