第9話「QC会議」

 護衛クエストを受けたらこのざまか……。


 俺達にはまだ早かったか? いやでも、一度受けたからには責任持って遂行しないと。


 万が一商人の人を死なせるような事があれば、ギルドから監査(尋問)を受けて、最悪冒険者ライセンス剥奪だ。


 そうならないように、今はこの盗賊達を倒す!

 盗賊は、サーシャが1人倒したから今は4人か。



「マッド! お前は図体のデカい後ろの男を頼む! 相手がどんなスキル持ちか分からないから警戒しろよ!」

「了解っす!」


 あの図体なら、素早さの高いマッドには着いてこれないだろう。


 だが、警戒すべきは盗賊達のジョブとスキル。


 こういう時、相手のジョブとスキルや強さが分かっちゃうスキルがあれば便利なんだけどな……。


「俺達は【庭師】! 貴族の庭師をクビになって盗賊になったが、ハサミ使いなら誰にも負けねえ! 剪定してやるぜ!」

「お、おう……」


 良かった~、コイツら馬鹿だ。て事は、コイツらが持ってるのはナイフじゃなくて、ハサミだったのか……。


「サーシャ! 相手はハサミ使いの庭師だ! ハサミはリーチが無いから距離を取って戦え!」

「りょ! こんな奴らに負けるかっつうの!」


 後は、鬱に変化してしまったリリエッタをどうするかだな……。


「大丈夫かリリエッタ?」

「私の事は心配してもムダですよ……私なんて必要のない人間ですから……」


 ダメだこれはっ!


 なんとか立ち直らせる方法を……あ、そう言えば、鬱の人に声援や前向きな言葉を無理に伝えると、逆効果だと前世で聞いた事があるな。


 それなら、この状況を逆に利用してやれば……。


「リリエッタ! お前が辛いのは、全部あの盗賊達のせいだ!」

「……え?」


「あの醜悪な面を見たせいで辛いんだ! お前が前のクランをクビになったのも、そのヘンテコなジョブを授かったのも全部あいつらのせいなんだ!」

「そうなんだ……全部……あいつが悪いのか……だったら……駆逐してやるううううっっ!!」

「うおっ、なんだこの女! や、やめ、ぐへぇっっ」


 目にも止まらぬスピードで駆け寄って行ったリリエッタは、憎悪に満ちたとても凶悪な表情をして、次から次へと盗賊達を斬り伏せいく。


「リリエッタすごっ……うち、こんな姿見た事ない……」

「この人怖いっす……」

「はぁ、はぁっ……全部、全部倒した! これで私は……」


 全ての盗賊達を一瞬で倒してしまった後、リリエッタは力尽きたように気を失ってしまった……。



「という訳でっ! 今からQC会議を始める!」


 なんとかリリエッタの凶行のお陰で盗賊達を退けた俺達は、商人を目的の村まで送り届け、村の古びた宿屋に一泊する事にした。


「きゅーしー会議? なんすかそれ?」

「意味分かんないんだけど~」

「また失態を犯してしまった……」


 宿屋の一室に集まり顔を見合わせる。

 今から反省会兼、緊急QC会議を開く。


「QCとは、クオリティーコントロールの略だ。つまり品質管理の事。今回のクエストで起こった問題に気付き、原因を探くって解決しようって事だ!」

「そういう事っすか。リーダー分かりずらいっす!」

「だよね~、馬鹿にも分かりやすいように、よろ!」

「どうして私はいつもっっ!」


 分かりずらいか……悪かったよ。

 格好つけたかっただけですよ!


 それより、リリエッタが"通常の状態"でだいぶ落ち込んでるな……。


 ひとまず鬱状態は脱したが、このまま放っておくとまた鬱になってもおかしくない。


「リリエッタ……俺はどんなリリエッタでも、絶対に見捨てたりしないから安心して欲しい。ずっと傍にいるからさ」


 落ち込みながらベッドの端にちょこんと座っていたリリエッタに近づいた俺は、頭を優しく撫でながらそんな言葉をかけた。


 正直、自分が気持ち悪い。

 なんだそのキザなセリフはっっ!

 前世でアニメを見すぎたせいだ!


「ひゅーっ! リーダー、最高に気持ち悪いっす!」

「きゃーっ! もう一回言って! 鳥肌ヤバす!」

「うるさい! 気持ち悪いのは分かってるよ!」


 マッドとサーシャに茶化され顔が火照る。そんな俺を、リリエッタは真っ直ぐ見つめ笑ってくれた。


「ふふ、気持ち悪くなんてないです! 凄く安心しましたよ! でも、さっきのセリフは一語一句"覚えました"からね?」


 なんとか元気を取り戻してくれたリリエッタが、笑いながら俺の言葉を茶化す。俺も忘れてくれとは言えず、笑いながら誤魔化した。


 俺の道化で雰囲気が良くなった室内で、改めて会議を始める事に。


「さて、今回危ない場面になった原因の1つは、索敵が失敗した事だ」

「俺のせいっす……俺、いつも大事な場面で嘘ついちゃうんすよね……」


「その嘘って、例えば敵が居ないか確認。居たら正確な人数を教えろってお願いしたら、どんな嘘になるんだ? 今回の場面だと想定して」

「そうっすね……『5人の盗賊の姿なんて全然見えなかった』って、言うっす!」


 ほう、それなら使いようがある気がする。


 5人という数は正確だし、嘘は"見たか見なかったか"という所だけだ。


「因みに、マッドはスキル持ってるか?」

「持ってないっす! 隠れてる相手が正確に分かる【疑惑の目】なんて絶対持ってないっす!」

「絶対持ってるじゃんそれ」

「持ってますね」

「持ってるな」


 成る程。それなら益々索敵に最適と言う訳か。

 俺が嘘を嘘と見抜けさえすれば確実な情報が得られる。


 マッドの秘めた可能性が見えてきたな。


 その後も、今回の反省点や原因の追及を話し合った俺達は、これからどういった連携でクエストにあたるか、夜遅くまで語り合った。


 その甲斐有って、みんなの持っていたスキルの使い道が分かり、戦い方を改善すればもっと上手く立ち回れるかもしれない。という希望が得られた。


 第1回QC会議は大成功だなこりゃ。


 そしたら次は、改善の準備をして、いよいよダンジョンにでも潜ってみるか――

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