第7話「思わぬ報酬」
「やったな……」
「なんとかなったっすね……」
「まさか、うちらが全部やっちゃうとはね……」
「エレンさんの指示が的確でスムーズだったからだと思います!」
周囲に広がる慘状。斬り刻まれ真っ二つにされたスライムやゴブリン達に囲まれている。
その中で、俺達は汗を垂らしながらも不思議な達成感に包まれていた。
疲労困憊とはこのことか。
ここで更にモンスターに囲まれたら終わりだな。
「よし皆。残ったキングスライムはギルドに報告するとして、早く町に戻ろう。ここでモンスターが出てきたら死ぬ……」
「そうっすね……あっ、でも、討伐部位集めて帰らないと報酬貰えないっすよ!」
「せっかく倒したんだし集めてこうよ~」
「私も集めた方が良いと思います」
確かにみんなの言う通りだな。
モンスターを討伐して報酬を貰うには、討伐証明としてモンスターの部位を提出する決まりになっている。
ゴブリンなら右耳。スライムなら核だ。スライムの核は、中心にある拳大ほどの黒い塊の事を言う。
一説には、これがスライムの本体ではないかと言われていたりする。
そしてこのスライムの核。
火を付けると良く燃えるんだ。
大体、一時間ぐらいは燃え続けるかな?
最後は小さくなって消えてしまうので処理も簡単。
だから、良く燃料に使われている。
モンスターの中では最弱だが、燃料としてはピカ一だったりする面白いモンスターだ。
「分かった。さっさと集めて帰ろう」
俺の号令で討伐部位の収拾が始まった。スライムの核とゴブリンの耳を、事前に用意していた袋にポンポン入れていく。
約10分ほどで全ての部位を収拾出来た。
袋もパンパンだし、今日の報酬が楽しみだ。
「リーダー集めるの早いっす!」
「ああ、こういうの得意だから」
体力は使うが、同時進行スキルのお陰で雑用は楽々なんですよ。
「さすが【雑用】だね!」
「サーシャさん……それ誉めてんの?」
「これでも誉めてるんですよ……サーシャはズバッと言うタイプなので悪気はないんです……」
「そうですか……リリエッタさんも大変だね」
サーシャはサバサバタイプで、リリエッタは大和撫子タイプかな?
「てか、そろそろ"さん"付け止めてくんない?」
「そうですね! 私も思ってました!」
「え、いや、でも歳上ですし……」
あれ? 歳上? そう言えば年齢聞いてなかったな。
「エレンいくつ?」
「20歳です」
「うちら21~」
「1つ違いなら遠慮なく呼び捨てして下さい!」
そうか……クランメンバーは家族みたいなもんだしな。
あんまり壁作ってもしょうがないか……。
「分かった! なら遠慮なく呼び捨てさせて貰う!」
「そんなの当たり前っしょ」
「気なんて遣わないで下さいね♪」
うん、この戦いで連携したお陰か、仲が深まった気がする。それだけでも大収穫だったな。
「俺24歳っす」
「「……」」
「俺が一番先輩っす。敬語使えっす」
「調子乗るなっつうの~」
「そういうのはあまり誉められませんね」
「お前の言う事は信用ならん」
なんかイラッとしたんで、全員で頭に一発ずつ入れといた。
「痛いっす! みんな酷いっす……」
とりあえず、ここでクエストを終了して帰る事にしたんだが、少し気になる事があった。
「みんな、ちょっと俺行ってくる!」
「あっ、どこに行くっすか!?」
「ええっ、キングスライムに突っ込んでったけど!?」
「ええっ、口から体に入って行きましたよ!?」
栄誉不足で少しぐったりしていたキングスライムの体に突撃した俺は、足だけを口から出す形でモゾモゾとある物を探していた。
「ヤバいっす! バタバタしてるっす!」
「た、助けに行こっか!」
「足を引っ張って出しましょう!」
スライムの体は弱酸性のお肌に優しいゼリー状。
ゼリーの中なので当然息が出来ない。
スライムキングの体内に入った俺は、息を止め探し物をする。探してた物にもうすぐ手が届きそうな時、足を引っ張っられる感覚を覚えた。
あ、もうすぐ掴めそうだからちょっと待って!
あ、でも息が限界かも! 溺れそう!
そう思った瞬間――
「なにやってんっすかリーダー!」
「突然意味不明なんだけどっ!」
「まあまあ、エレンさんも何か考え……行動する前に言って下さい! 安全第一ではなかったのですか!」
俺は産まれた。仲間の叱咤と共に……。
「そうっす! 安全第一はどこ行ったっすか! 嘘つきはリーダーっす!」
「ほんとっ、無鉄砲なのはエレンの方だね!」
「死んだらどうするのですか!」
「す、すいませんでした……でも、これっ」
そんな責めないでよ……行けると思ったんだよ……。
黄金の槍のハゲリーダーから、前に聞いた事を思い出してしまったんだ。
『スライムなんてスキルを使う必要すらねえ!ピョンピョン跳ねてんの取っ捕まえて、口の中に手突っ込んで核ごと引っこ抜けば勝手に死ぬのさ!』
何そのグロいやり方。と、当時は思っていたんだが、考えてみればその方が効率良さそう。
武器で倒す必要もなく、スキルで燃やす必要もない。
労力を最小限で倒せるから今度からそうしようと思った。それと同時に、キングスライムが栄誉不足で動けない今なら、同じやり方で倒せると思ったんだよ……。
言わなかったのは、倒した後ドヤ顔したかっただけ。
リーダーさすが! って言われたかっただけだからそんなに責めんといて……。
「その虹色の塊は……スライムキングの核ですか?」
リリエッタの問いに、俺はしょんぼり頷く。
「てか、スライムキングが萎んでく」
そう、倒したから誉めてサーシャ。
「そんなやり方で倒せるんっすね!?」
そうなんだよ。だから誉めろマッド。
「キングスライムって倒すと王冠も残るんですね……」
「ピカピカだし、売ったら高そうじゃね?」
「そうっすね! 思わぬ報酬になりそうっす!」
そうなんだよ皆。だからほら、誉めて?
「帰りましょうか。あまり長いすると血の臭いで他のモンスターが寄ってきます」
「そだね~。あっ、マッド王冠の回収忘れないで」
「了解っす!」
「あ、ちょっと待って! 置いてかないでっっ」
俺を置いてスタスタ歩き出す仲間達。
しょんぼりする俺。
三人はしばらく歩いた後ピタリと歩みを止め、此方に振り向いた。
「行くっすよ! 嘘つきだけど、さすがっす!」
「うちより無鉄砲な人初めてだわ! 今日は、MVPのエレンの奢りだかんね」
「今度は作戦があるなら教えて下さいね! でも、格好良かったですよ!」
ああ、皆……いや、俺の仲間達は最高だ!
「なんだよ皆……ツンデレかよ~!」
初めてのクエストを無事に終え、帰路に着く俺達。
笑顔で帰る俺達【ホワイトカンパニー】の初陣は、大成功? で幕を開けた。
「よし、さっそく報酬の確認だ!」
「楽しみっす!」
「これが冒険者の楽しみだっつうの!」
「ふふ、なんか胸が躍りますよね!」
ギルドに帰った俺達は、報酬の確認と山分けタイムに入る。
袋に入ったパンパンの討伐部位を預け、クエスト完遂の申告を受付で行う。
スライムが大量発生していた原因を突き止めた事。
また、その原因を除去出来た証拠としてキングスライムの虹色に輝く核を受付へ提出。ついでに王冠も査定に出した。
さて、結果は如何に……。
俺達は少しドキドキしながら報酬の結果を待った。
「ホワイトカンパニーのエレン様~! 報酬の査定が終わりましたので受付にお越し下さ~い!」
お、受付に呼ばれたな。
「お待たせしました! さっそく報酬の内訳を説明しても宜しいでしょうか?」
「お願いします!」
初めての報酬受け取りで興奮していた俺は、食い気味に返事をする。
「では、先に討伐報酬から……」
「はい! 是非!」
ひきつった顔をするものの、笑顔を崩さないあたりプロ根性が伺える。
「スライム120体の討伐報酬は、"銀貨1枚と銅貨2枚"になります。続いてゴブリン30体の討伐報酬は、"銀貨3枚"です」
おお、スライムとゴブリンだけで銀貨4枚と銅貨2枚か。中々頑張った方かな?
「続いてクエスト完遂報酬ですが、今回はスライム大量発生の原因となる、キングスライムの討伐に成功していますので……おまけして金貨2枚の報酬をお受け取り下さい」
やったー! ラッキー! おまけまでしてくれるとは、思わぬ報酬だったぜ。
「そして最後に……キングスライムの討伐報酬ですが、こちらは"王冠と核"どちらかを提出頂ければ宜しいですし、両方でも構いません」
へ~、キングスライムって王冠と核、両方討伐部位なんだ。だったら結構な報酬が期待出来るかも……。
この時はそう単純に考えていた。
まさか、本当に思わぬ報酬を手に入れるとは思わず。
「因みに王冠の方ですと"金貨10枚"。虹色の核の方ですと、大変貴重なため……"金貨200枚"になります。どう致しますか?」
俺はこの時、まれに見る阿保面をしていたと思う。
「ちょ、ええっ!? き、金貨200まいいいいっっ!? 一瞬で借金返せるやんけええええーっっ!!!!」
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