5話 美容師

「いらっしゃ〜い!ごめん!ちょっとまっちょって!」


色鮮やかなブロッコリー色をした髪色の彼女。


(朝から元気だなあどこからあんな声が出るんだよ)


「は〜い。全然いいよ〜本読んどるけん」


そう思いながら私はいつものように小説の世界に入り込む。


今日は、だいぶまえに彼女に誕プレでもらった「海の見える理髪店」を読む。


「あ〜!それ、私が昔あげた本やん!おおおほほほ〜嬉しい!(ニコっ)」


彼女の笑顔は人を幸せにする力があるなと毎回思う。


いつもの3倍増し上機嫌みたいでなによりだ。そして私も微笑み返す。(エヘっ)


さっそうと店内をいったりきたりする彼女は31歳にして自分の店を持っている。


「私30代でお店持ちたいんよ!あと、みんなが来やすい場所にしたい!あと、お母さんとも一緒に働くんだ〜。昔、美容師の夢諦めてたみたいだしね。ふふh」


と、彼女は遠い目をしながらコテアイロンよりも熱く熱く語っていた。


キラキラしている。輝いている。私もそうなりたい。


私はその時強く、そう思った。


10年の月日が流れた今、彼女はあの時の夢を叶えている。


「お母さんちょっと、こっち手伝っちょっくれん?(手伝ってくれない?)」


ポップで軽快な音楽が流れる店内に、彼女の元気な声が響き渡る。


「はいはい。ちょっとまっときんさい。(まっときなさい)」


今日も店内は活気と笑顔で満ち溢れている。



あの日、彼女がこぼしていた声を思い出す。


「この仕事ってキラキラしてるけど、全然楽な仕事じゃないし、裏の仕事も多いんよ。今日も1人12時まで残って練習だしさ。でも、みんな優しいし、楽しいんよ。うん、すごい楽しい。もしお店出したら絶対来てね!」


夢中になれるものがあるって素敵なことだ。



「お〜〜い、かれ〜〜ん?」


「、、あ。ごめん(笑)昔のこと思い出してた。」


「なんじゃそりゃ。はい!おまたせしました〜!今日はどうする?」


「えっとね〜。おまかせで(笑)」


はい。カウンセリング終了。これが楽で助かる。


「了解です!昔からかれんは変わらんよね〜なんか安心する。」


「え、それ褒めてる?」


変わらないのは彼女の方だ。


私は軽くツッコミを入れつつ、今も輝きが増していく彼女の背中を見て


(ふ〜。明日もがんばるか〜)


と今と変わらない私でいたいな。


でも今より輝いてたいなと現実逃避する


21歳日曜日の朝。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る