4話 夫

「おう、おはよーー。。ねっっぶ。」


前髪が90度そね返ってる。


やけにも


”昨日は眠れませんでした”


と言う言葉が、背中に書いてある。


妻である私にはわかる。


女の勘。とでもいっておこうか


昨夜、突然会社から辞令を下されたのだ。


そりゃまあ。前髪が反り返るはずだ。


夫はプログラミングの先生をしている。


昔はそうでもなかったが、今ではメジャーな仕事で人気も高い。


私も5年前まではIT関係の仕事に就いていた。


そこで夫とは知り合い、今では一緒に朝を迎える関係である。


馴れ初めの話はまた、気が向いた時にもしようか。


今日は ”それどころではない空気感” であふれている。


「今日もカレーでいい?」


私はいつもと変わりない言葉を投げかける。


「いらない。」


前髪は通常姿勢に戻っていたが食欲はそうでもないらしい。


「人生とはファスナーが壊れた財布みたいなものよ」


昔大好きだった小説に出てくる女の子の真似をした。


「いきなりなんだよ。壊れた財布?なんだそれ。」


「新しい出会いを探しにいかなくっちゃ。だって、大事なものしまえないでしょ?」


「ふっ。なんだそれ。ふっ、、なんだよそれ。」


少し口角が上がる。90度まではいかないが、良しとしよう。


「おかあさんまだああああ遅刻しちゃうよおおお」


(はあああしもたあああ)


慌てて玄関を見ると雨がっぱを着て呆れた顔でこっちを見ている蒼太がいた。


「てへ。こんな朝もあるよね(下手なウインク)」


「いつものことじゃん。(小声)」


蒼太の声を聞こえないフリしながら、夫の傘をさし慌てて飛び出す。


「ごめん傘借りてくね!」


「また忘れて来んなよ!!?」


いつもより少し小さい、でも寝起きより元気な夫の声が聞こえた。


今日は金曜日。今日は戦わないきゃ行けない。


明日の私に元気をあげられるように。


私はいってくるよ。


そんな朝もあるよね。


迷いもがきあがく21歳の朝。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る