第25話 声を、
家に転がり込むかのように入ると、即座に玄関を閉め、その扉に背中を預け、盛大に息を吐いた。
「全く危なかったわー。アイツも必死だな……。話しかけるのは自分でどうにかしろよな」
しかし、今度会った時にまた言われそうだ。
その時はどう言い訳をしようかと思いながら、部屋のドアを叩いた。
クロサキはやはり、今も苦しそうに浅い息を繰り返し、魘されていた。
そんな姿がとても見ていられそうに無かったが、どうにか己を奮い立たし、
「クロサキ。今日はオマエにプレゼントがある。シロアンからの花冠だ。オマエのことをずっと待っているってさ。コレ一回貰ったのに忘れて置いてきてしまったらしいじゃねーか。今度は大事にしてやれよ」
そう言いながら、布団の上に置いておいた。
すると、どうだろう。急に静かになったかと思えば、ゆっくりと半分ほど目を開けたのだ。
何が起きたんだと、すぐには理解出来なかった。
何にも声を掛けずにいると、クロサキが恐る恐るといった手つきで花冠に触れると、強く掴んだ。
その衝撃で花冠は崩れてしまうのではないかと思うくらいだったが、気にせず、そうしていると。
「………………──……し……ろ……」
ヒュウガは自分の耳を疑った。
か細くひどく掠れた声だったが、単語を言っていたのが聞こえた。
全てを言った訳ではないが、クロサキが何を言おうとしているのかが、十分に分かった。
その二つを言ったきり、口を閉じてしまっていた。
しかし、そのたった二つの文字だけでも声を発したことがとてつもなく嬉しいことであった。
「クロサキっ!今、声を…!声を出していたな!どうしたんだよ、急にさ!ビックリしたぜ!けどな、オレは自分のことのように嬉しいぜ……!良かったな、クロサキ!」
最後は涙が出ていたらしい。
涙声になっていたが、そんな小さなことなんて気にしている場合じゃなかった。
良かったな、良かったなと何度も言い続けた。
その間もクロサキはまだ夢の中にいるかのようなはっきりとしない瞳をしたまま、花冠を持っていた。
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