第24話 浮かれる

 花冠を持って鼻歌を歌っていると、「上機嫌そうだな、ヒュウガ」と声を掛けられた。

 目の前に友人がいた。声を掛けられるまで全く気づきもしなかった。どんだけ浮かれていたのだろう。

「まぁ〜な〜」

 自然とそんな声を出してしまうくらい本当に上機嫌そうなヒュウガをよそに、友人は手に持っている物が目に入った。

「オマエが持っているソレなんだ?」

 ヒュウガは掲げて見せ、

「あぁ、コレはな。天界に咲いている白い花で編んだ、花冠って言うんだ。オマエが前に教えてくれたウワサのヤツが作ってくれたんだぜ」

 いいだろと、言わんばかりの口調で話すヒュウガに友人は、「話せるくらいの関係までいったのかよ!?」と驚いていた。

「頻繁にどっかに出掛けていやがるなと思っていたが、まさか天界の方に行っていたとはな。オレなんか、たまに行って、遠くで歌を歌っている姿を見るだけでも満足していたのに……!オメェやることがはぇよ!」

 食ってかかるかのような勢いで言う姿に、オマエも行っていたんだなと、言う。

 すると、険しい顔をし出し、

「そらそうよ!あの歌を聞いてっとすげぇ気持ちが穏やかになるんだよ!特に魂を狩った後なんか聞くとな、やる気が上がるんだよ……!」

「それ、オマエのやる気の問題じゃ……」

 一気にまくし立てるかのような勢いでいわれたもんだから、引き気味でぼそっと呟いた。

「まあ、ともかく。よくそんなに頻繁に行ってられるよな。仕事、溜まってねーの?」

「少なくともオマエよりかは溜まってねーわ」

 とは言ったものの、本当は前よりかは溜まってきてしまっている。他の死神達がきちんと狩らないせいで、この世にさ迷ってしまう寸前の魂が多くなってきている。

 自分の責任ではないが、誰か一人でもちゃんとやらないとどんどん悪霊化してしまい、人間界、天界、死神の世界の秩序が保てなくもなるし、ただでさえ、天界と死神の世界は良好な関係ではないらしいのに、ますます悪くなっていき、良い魂の受け取りをするのが難しくなる可能性がある。

 天界に行って、シロアンから貰った花冠で浮かれている場合でも無いが、それもしたいことでもあった。

 欲張っていても仕方ないが、どれかをやらない訳にもいかなかった。なかなかに難しい。

「まあ、首が回らなくなったら、オレに言ってくれよ。何とかするからさ」

 この友人は自分だって無理かもしれないのに、気を遣ってくれているのだ。昔からそんな奴であった。

「オマエの手を貸されなくとも、何とかやってみせるわ」

 冗談めかして言うと、「言ったなー!このー!」と肩を抱いて、笑っていた。

 ヒュウガもつられて笑っていた。

 しばらく笑い合っていると、「ところでさ」と言ってきた。

「なんで、そのハナカンムリっていうやつ、二つあんの?意味あんの?」

 痛いところを突かれた。浮かれていたせいか、そのことを忘れていた。これは変に疑われてしまう。

 何とか必死で考えた言い訳は。

「いや、これはシロアンが、作りすぎてしまったとか言って──」

「んっ?シロアン?あの天使の歌姫、シロアンっていう名前なのか!?」

「あぁ、そうだが……」

 なんだ、「天使の歌姫」って。

 一人で盛り上がっている友人に呆然としかけたが、急に我に返り、今の隙に逃げれるのではないかと思い至り、こっそりと去っていく。

「オイオイヒュウガ。オマエって本当にどんな相手でも──ってオイ?」

 振り向いた時にはヒュウガの姿が消えていた。

「アイツ逃げたなー!!!!」

 友人は怒りの叫びを上げた。

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