第21話 出ない
天界でシロアンの歌や話をして癒やされた後、クロサキの声を出させる手伝いをしていた。
ヒュウガが発した言葉を真似をしたら出せると思い立って、「『あ』って言ってみ。『あ』」と促してみた。
「─っ……」
口の形は『あ』なのだが、声には出ていなかった。
まあ、ずっと出していなかったのだし、仕方ないか。
「今日はこれぐらいにしておくか。疲れただろ?水飲んで、横になったらどうだ?」
水飲めるか?とコップを差し出すが、それに目もくれず、『あ』の形で必死に出そうとしていた。
水を吐いてしまった日、もう二度、声を出そうとしないのかと思っていたが、その次の日も今のように出そうとしていたのだ。
ここまで努力をしようとするクロサキは初めて見た。今までは何もかもやろうとするような素振りさえ見せなかったというのに。
天界でシロアンと会ってから、少し変わった。
(オレ以外に人と触れ合うというのは大事だな、やっぱ)
人間不信となってしまった人物をどうやって変えさせようと模索していた矢先の舞い降りた出来事であった。
シロアンには感謝してもしきれない。
心の中ですっごく感謝を述べると、コップをサイドチェストに置いて、クロサキの方へ向き直った。
「よし、クロサキ!頑張るか!」
さっきと同じようなやり方でヒュウガは声を出してみせた。
クロサキはそれに倣い、発しようとしても空気だけの音を出していた。
それでも諦める素振りを見せない。
二人は時間を忘れていつまでもやり続けていた。
その行為を止めようとしたのは、クロサキの顔色が悪くなってからだった。
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