第20話 人間界の出来事とクロサキ

 今回の人間の魂は、寿命を迎えようとしているとある老人であった。

 その人間の傍にいる為、そこに向かっている最中、怒鳴り声が聞こえた。

 外にいる人間らに目を向けたが、それらではないらしい。が、皆が皆、とある家に目を向けていた。

 ヒュウガも同じようにそちらに視線を向けていると、また怒鳴り声が聞こえ、その家からその人物らしい人間と、怒られている人物の手を無造作に掴んで出てきた。

 掴まれている人間は、小さい子供のようだった。だとしたら、親子なのだろうか。それにしても、ボロ雑巾のようなボロボロの服を着、顔は汚れているし、どう見ても大切にされているようには見えない。

「……あら、また始まったわ。あの子本当に可哀相だわ。最初は聞いているのが嫌になるぐらいに泣いていたというのに、何度か殴られているうちに感情まで無くなってしまって………本当に親子なのかしら」

 通り過ぎながらそのようなことをヒソヒソした声で言っているのを聞いてしまっていた。

 親子、というものはよく分からないが、とにかくあのような扱いをしないということは分かった。とはいえ、死神であるヒュウガにはどうすることも出来ない。寿命を迎える人間にしか関わってはいけないのだから。

 呆然としていると、無抵抗の子供を無理やり引きずるかのように、家の傍にある井戸に連れてきたかと思うと、井戸の近くにある桶にその子供の小さな頭を掴み、その桶に突っ込ませた。

 水が入っていたらしい。水が周りに飛び散る。

 その子供は特に抵抗するといった反応は無かった。

 顔を上げさせ、突っ込む。その行為を何度か繰り返していると、親らしい人間は飽きたのか、子供をその辺に投げ捨てていた。

 放置された子供は動く様子は無かった。

 何人かの人間はヒュウガと同じように見ていたが、興味が失せてしまったらしく、その場を去っていた。

 誰も助けようとしない。関わろうとせず、それも日常の一部だと思って何事もなく過ごしている。

 何て無責任なヤツらなのか。傍観はしていたクセに。

 無意識に拳を握りしめていると、昨日の事を思い出した。

 クロサキが水を吐いた後、震えていたことを。

 クロサキもあのようなことをされていたのだろうか。今までは何ともなさそうに飲んでいたが、吐いたことで思い出してしまったということなのだろうか。

「…クロサキ。オマエ、オレのところに来る前に何があったんだよ」

 あの子供と同じような扱いを受けていたのかもしれない。

 痩せ細り、全身は傷だらけ、光を差してない瞳。

 服は小綺麗なものを着ていた以外、あの頃のクロサキとそっくりだった。

 そうだ。感情を失くしてしまったあの時だって、直接見たわけではないが、あの子供と同じように、服はボロボロ、顔にも痛々しい程のアザを作っていたではないか。

「そういうことなのか……?」

 クロサキのことを知りたかったはずなのに、知りたくなかったと思ってしまう。

「……っと、こうしている場合じゃねぇ。魂を狩らねぇと」

 首を振り、無理やり奮い立たせ、その場から駆け出した。

 その間にもあの子供が見ていたことを気づかずに。

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