第13話 いいこと
「クロサキさんは本当よく熱というものを出してしまうのですね。大丈夫なのでしょうか」
「本当にそうだよな。天界に行かせてやりたいが、あんな様子じゃあ、やすやすと連れて行けねーんだわ。どうしたものか……」
二人は鐘の近くにある階段に並んで、うーんと唸っていた。
今までの行動を見るからに、熱が出る前は"血の湖"に行くことがあった。が、大概その前で倒れていることがある。それは必ず熱が原因で。
だとすると、少しでも歩くとそうなるということになる。
二回程天界に何とか行けた時も、後が特に酷かった。
どうにかならないものなのか。
かなりおせっかいかもしれないが、クロサキには少しでも外の世界に触れて欲しいと思った。気の許せる友人が出来なくても。
永遠にあの家に引きこもり、悪夢を見続ける生活はあまりにも可哀想過ぎるから。
「ヒュウガさん!とってもいいことを思いつきました!」
シロアンがその場に立ち上がって、そう大きな声を上げた。
その急な声に驚きながらもシロアンの方を見上げた。
「どんなんだ?」
「それはですね…………私が死神の世界に行けば良いのです!」
「ダメだっ」
シロアンの言葉を遮るかのように、今度はヒュウガが大きな声を出して、強く否定した。
笑顔になっていた顔が段々と眉を下げ、悲しそうな顔をする。
そんな顔を見て「い、いや、そういう訳じゃなくてさ………」顔の前で両手を振って、目を逸らした。
「何て言うんだろうな…………その…あ、こことは違ってさ、足場が悪いんだわ。それに暗くて歩きづらいし。だから、シロアンが危ないと思ってさ…………」
苦し紛れの言い訳に聞こえるだろう。それに目を逸らして、明らかに嘘を吐いていると端から見ても分かることだ。
そこまでして、ヒュウガはシロアンのことを独占したい気持ちが湧いてきてしまったようだ。
(それに、死神のヤツらが噂をするほどだ。シロアンがもしも来てしまったら、かなりヤバイことになりそうだしな…………)
「そう、なのですか……それなら仕方ないですね。暗いのはヒュウガさんと手を繋げばどうにかなりそうとは思ってましたが、足場はどうにもなりません。でしたら、他のいいことを思いつかなければなりませんね」
そして、その場に座って再び悩み始める。
シロアンが言っていたことを心の中で復唱した時、ん?と思った。
(手を繋ぐ?オレとシロアンが?ん??なんかよく分からねーが、恥ずかしいな……)
ヒュウガは共通の悩みの他に一人悩んでいた。
「っと!このままここにいる場合じゃ無かったんだ!シロアン、わりぃが、今日は帰るわ」
「あ、はい。いいことが思いつかなくてごめんなさい」
「いや、それはオレもだ。すぐに思いつかないこともある。気にすんな。その代わりにオレがなるべく来て、クロサキのことを伝えるからさ。それでいいか?」
「はい!それはいい提案ですね!とても良いです!お願いします!」
満面の笑みで言ってくれた。
その表情がとても良い。無意識に頬を染め、見惚れてしまっていた。
いけねーいけねーと首を振って。
「じゃあ、また」
「はい。またです」
後ろを振り向きながら手を振った。シロアンも同じようににこやかな顔を浮かべて手を振り続けてくれた。
見えなくなるまでずっと。
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