第12話 走っていった先に

 家にもいたくなくなってしまい、家からも飛び出した。

 途中、友達が自分の名を呼んで大声を上げているのような声が聞こえた気がしたが、走る足が止まらなかった。

 無我夢中で走り続けた。

 どうして自分は走っているのか、どうして家にいたくないのか、どうしてクロサキのことを放っておいてしまったのか、何もかも分からなかった。

 そして、今何処へと向かっているのかさえ分からなかった。

 とにかく走り続けた。


 走り疲れて、膝から崩れ落ちた時。

「ど、どうしたのですかっ?」

 上擦った、高い声が聞こえた。

 それと同時に眩しさを感じた。

「…………こ、…………こ、は」

 独り言のように呟いた声が上手く出せなかった。今更のように息が出来ないくらい走っていたことを思い出した。

 何をやっているんだろうな、オレは。

 自嘲気味に笑っていた。

「ヒュウガさん、そんなにも息を乱して、何かあったのですか?」

 いつの間にかそばに来ていたらしい、ヒュウガの肩にそっと手を置いて、不安げな顔を見せつけていた。

 そんな顔をしないでくれ、大したことことじゃない。

 その言葉を言いたいが、まだ息が整わなくて声が出せそうになかった。

「クロサキさんもあれから来なくなってしまいましたし。だから、私のあの言葉のせいで、傷つけてしまったのだと毎日ずっとそう思いまして、歌を歌う気にもならなくて…………」

 言葉が途中で途切れたと思った瞬間、蒼い瞳が揺れたかと思うと、濡れて、一滴が流れた。

 それを皮切りに流し出す。

 次から次へと。

 自分でもどう止めたらいいのか分からないらしい、肩を置いていた手が離れ、両手で顔を覆って、嗚咽しながら泣いていた。

 ヒュウガは突然のことにどうにも出来ず、ただ見ているだけだった。

 シロアンが泣いた理由が自分がいない間にクロサキに何か言葉を言ったから、それに傷つき、あれから来ないのが自分のせいだと思っている。

 あんなにも綺麗な歌を歌えなくなる程、一人で悩んでいた。

 シロアンはそう思って、言っていた。だが、違う。

 さっきよりも大分良くなってきた呼吸で、ヒュウガは言葉を紡ぎ出す。

「シロアン、それは誤解だ。違う。オレも細かいところは分からないが、天界から帰って来た後、ひどい傷を負ってな、それに熱もあって、すぐに行くにも行けなかったんだ。だから、シロアンは全く悪くない」

「ほんっ……とうですか…………?」

「ああ」

 泣き顔を見せられ、どこか胸がざわつくのを感じながら、返事をした。

「そうでしたら、私もいつまでも泣いている場合じゃありませんね。笑って、クロサキさんのことを迎えなくては」

「ああ。その行きだ」

 元気づけるためにも明るい調子で言うと、シロアンは、ふふっと笑った。

 やはり、シロアンの笑顔は一番良い。見ていて、晴れやかな気持ちになる。

 ヒュウガも一緒になって笑っていた。


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