第6話 刻印の疼き

 ─どうして、あのような行動をしたのか分からなかった。衝動的だった。


 途中、他の死神の目をかいくぐりながらも、やっとヒュウガの家の近くに来た頃には、前に進む為の足が上がらず、引き摺り、地面にその跡を残していく。

 ─早く、しなければ、気づかれる。

 ヒュウガの口からは聞いたことが無かったが、それ以外の人達は、根も葉もないウワサを信じ、クロサキの姿を見かける度に口々に言うのだ。

 ─"災いの髪だ!近寄るな!呪われるぞ!"

 まるで、"あの時"と同じようだ。自分のことを囲むようにして沢山の見知らぬ人達が、罵詈雑言を吐いている、"あの時"と。

 もう、聞きたくなかった。思い出したくもないのに、耳を塞いでも脳に反響するかのようにあの時のざわめきがこびりついて離れない。

 その時、"あの時"刻まれた刻印が疼き出した。

 あまりもの痛さに顔を歪ませ、反対の手でその痛みを抑える為に強く握りつつも、その場に座り込んでしまう。

「…………っ」

 声にならない荒い息を吐いているせいか、上手く呼吸が出来なくなっていく。

 体が熱く感じる。

 今さらのように気づいた体調不良がきっかけで、急に体が重く感じ、ほぼ意識を失いかけていた。

 だが、ここにいる訳には。

 しかし、体は言うことを聞いてくれない。朦朧としている意識に逆らえるはずがなく、クロサキは、その場で倒れた。


「どうされてしまったのでしょう」

 クロサキが突然その場から去ってしまったしばらくの後、シロアンはぽつりと呟く。

 何か話さないのかと訊いたのが悪かったのだろう。それで、嫌な気持ちになって、何も言わずに去ってしまったのだ。

 ただ、人の話を聞く方がいいという人だったかもしれないのに。

 気づいた時からシロアンはひとりでいたから、それに気づくのが遅かった。

 謝らなければ。

 だが、また来るかどうかさえ分からない。このままずっと来ないかもしれない。

「どうしたら…………」

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