「あ、チャット繋がってるよ」


 保健室の先生。携帯端末が投げられる。


「俺です。はい。終わりました」


『そうか。何が狐を祓う引き金だった?』


「キスでした。身体的な接触」


『まじか。心に憑いたものを祓うのに身体とはそりゃあ、まあなんとも、難しいな。よく解答に辿り着いたもんだ』


「俺じゃないです。彼女が。最期に」


 言葉に詰まる。


「彼女が、キスしてくれたんです。そのおかげです。おいしいキスでした」


『そうか。後はこっちで片付ける。まずは休んでくれ。たぶんお前がいちばん休息を必要としてるはずだ』


「俺もそっちに合流させてください」


『だめだ。休め』


「このまま。彼女が。彼女がいなくなったのに、俺は。何もしないでいろと?」


『そうだ』


 通話が切れる。


「くそっ」


 保健室の先生に、携帯端末を投げ返す。


「きげんがわるいですね?」


「ええ、まあ」


「え?」


 保健室の先生が言ったのだと思った。


「違う違う。私何も言ってません」


「そんな」


 彼女が。

 起きている。


「こっちです、こっち」


「なんで」


「なんでって、つかれたから寝てただけですけど。キスするって、つかれる」


「大丈夫なのか、心は」


「心が、どうかしたんですか?」


 彼女。けろっとしている。不思議なほど、普通。


「狐が、祓えたから。戻った、のか」


「ん。狐?」


「いや、なんでもない」


「ね。キスして」


「却下」


「えっなんでよさっきしたじゃないの」


 保健室の先生見てるでしょうが。

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