第20話 ヌメヌメ

 ナメクジ。

 暗く湿ったところを好み、ヌメヌメした体で地面を這う。物をどけると、たまに奴と目が合うのだ。

 わたしは前に、こう思ったことがある。


 ああ、こいつがこんなに小さくてよかった、と。


 もしそれが自分と同じ大きさだったら? もし家を飲み込むほど巨大だったら?

 その時は、想像しただけで身震いした。

 でもそれは、空想上の話。それ以上は何とも考えていなかった。


 本当に存在するとは思っていなかったから。


「ねえ、これはさすがに……」

 

「うん……」


 ルーチェの言いたいことはすごく分かる。

 

 緩慢な動きで向かってくる化け物たち。

 わたし達は奴らに背を向けて、一目散に出口へ駆け出した。


「あれは何!?」


 さっきの地下道に滑り込むなり、ルーチェが文句とも受け取れる声をぶつけた。

 ウィリアムさんは少し驚いている様子だ。

 

「あんなのがいるって知ってたら、こんな所に来なかったよ!」


「そーだそーだ」


 ウィリアムさんはため息をつきながら口を開く。


「奴らは『エノム-リ厶ス』なんて呼ばれている。動きは遅いが皮膚が硬くて、それに手こずっていると丸呑みにされるらしい」


「ヒエッ……」

 

 つい飲み込まれるところを想像してぞっとした。


「無理だよあんなの、気持悪い!」


「その力なら簡単に皮膚を貫けるはずだが」


「そういう問題じゃない! ていうかそれだと触らなきゃダメでしょ」

 

「……そうか」


 ウィリアムさんは壁に背を預けて座り込む。 


「悪かったな、こんなこと頼んで」


 もう諦めたような声音だった。

 

「こんなこと、最初から何の意味もなかったんだ」

 

 全てを、諦めてしまったようだった。

 

 その様子に居たたまれなくって、わたしは聞いてみた。


「聞かせてよ、どうしてその石が欲しいのか」


 しばらく、沈黙が続いた。

 あの怪物たちが這いずり回る音だけがかすかに聞こえる。


 やがて、ウィリアムさんは少しずつ話し始めた。


 

「――俺は、家族が大嫌いだ」

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