第18話 魔工技師

 ウィリアムと名乗ったその人は、騎士のようには見えなかった。がっしりした体格の持ち主だけど、大量に担いだ荷物の中に大した武器が入っていそうもない。あるとすれば大きなツルハシくらいだ。どちらかといえば鉱夫のような見た目だった。

 

「魔工技師?」


 ウィリアムさんは自分をそう称した。

 なんでも特別な素材を扱う職人だという。


「そうだ。魔石で色々な道具を造るのさ。見てみな」


 そう言ってウィリアムさんは青い石を取り出した。何もしなくとも綺麗なその石を、彼はハンマーで優しく叩く。

 すると、石が光りはじめた。表面がというよりは、内部から光を放ってそれが表層に透かされて青く輝いているようだった。


「きれい……」


 ルーチェがつぶやく。

 光はしばらくすると消え、また元通りの石に戻った。


「これが魔石なんだね?」


「そうだ。どれもいい材料になるんだが、その分採取が大変なんだ」


「もしかして、依頼っていうのはその事?」

 

「話が早いな。君たちにはとある鉱石を取ってきてほしい」


 ウィリアムさんは一冊の本を広げた。

 そのページには、きれいな八面体の結晶の写真が載っていた。


「この写真には色がないが、本来は銀色に輝いているんだ。『太陽の欠片』なんて呼ばれている。これを俺に渡してくれないか」


「どうして私達に頼むの?」


 ルーチェが不思議そうに聞く。


「こいつは地下の洞窟にあるのだが、そこは化け物がうろついている危険な場所なんだ。そんな所に石を掘りに行ける奴はなかなかいない。……俺はこの石を何年も求めているが、一つも手に入らないままだ」


 わたしはその説明に納得する。


「なるほど、そこでヴァイスのわたし達に頼むんだね」


「……子供に頼むなんてみっともないと思っている。もっとも君たちの実年齢は俺よりも遥かに上だろうがな」


 ルーチェはそんなこともないけど面倒だから言わない。


「その化け物っていうのは、どれくらい危ないの?」


「さっき君が倒した奴と同じくらいだ。……見た目は多少グロテスクだが」


 若干目を逸らせながらそう言われた。

 でも、そのくらいの強さだったら見た目はあまり関係ないように思えた。


「ルーチェはどうしたい?」


「私はいいよ」


「わたしも。ウィリアムさん、この依頼引き受けます」

 

 ウィリアムさんは嬉しそうにわたしとルーチェの手を握った。


「よかった、本当にありがとう。これで長年の夢が叶いそうだ」



 

 ……わたしはこの後こんな約束をしてしまった自分を殴りたくなった。

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