第10話 結婚
目が覚めて窓を見ると、まだ外は暗くなっていなかった。
……よかった。まだ時間はある。
寝ている間、ふといい案が浮かんだ。
ルーチェを助ける、いい作戦が。
ぼんやりした意識の中だからこそ、考え付いたアイデアだった。
わたしはそれを忘れないように頭に叩き込んで、ベッドからおりる。
部屋をでたところで、ちょうどルーチェのお母さんと鉢合わせた。
「アスールちゃん、もう元気になった?」
「うん。もう大丈夫。それよりさ、ちょっと聞いてほしいんだけど……」
わたしはその作戦を話した。
「ごにょごにょ……」
「……すごいこと考えるわね」
「どうかな?」
「無理矢理って感じがするけど、もしかしたら、いけると思う」
話していると、ルーチェが奥からやってきた。
「アスール、もうよくなったんだね」
「うん。痛みもかなりなくなったよ」
「よかった。いきなりだったからびっくりしたよ」
ルーチェはそう言って笑う。
「そうだ。ルーチェにも伝えておかないとね」
わたしが同じように話すと、ルーチェは戸惑った様子だった。
「うまくいくかな……」
「でも、もしかしたらこの問題は終わるかもしれないよ」
お母さんが助け舟をだしてくれる。
そうして、ルーチェはしぶしぶ納得したようだった。
「……それって、今から行くの?」
「できればそうしたいかな。わたし、いつ来れるかわからないし」
「それじゃあ、今から準備するわね」
お母さんは寝室に入って身支度をする。
わたしたちはしばらく玄関で待っていた。
ルーチェは見るからにそわそわしている。
それも無理なかった。
だって、こんな作戦に不安にならないほうがおかしいから。
村長の家は、村の中心部にあるそうだ。
ルーチェの家からは少し遠いため、しばらく歩くことになる。
途中で何人か村人はいたけど、ルーチェを見かけるとササっと家の中に隠れていった。
そのたびにルーチェは悲しそうな顔をする。
やがて、比較的大きい家が見えてきた。
おそらく、あそこに村長が住んでいるんだろう。
その家の前に立つと、お母さんは一回深呼吸をしてからとびらをたたいた。
「村長、ちょっといいですか」
けれど、返事はなかった。
しばらく待っていても、だれも反応しない。
「……しかたないな」
お母さんはため息をついて、勝手にとびらを開けた。
「なんだ。いるじゃないですか、村長」
家の中には、一人のおばあさんがつくえに頬杖をついて座っていた。
「窓からおぬしが見えたのでな。勝手に人の家に入ってくるような不届き者に、出迎えなんぞ不要じゃ」
おばあさんはしわがれた声で吐き捨てるように言った。
「それで、今日は何の用で来たのじゃ。そろそろその娘を結婚させる気になったのか」
「そうそう。そのことについて、わざわざ来たのですけれど」
二人の間に火花が散っているようだった。
ルーチェは居心地が悪そうにしていた。
わたしはそんな空気をかえるため、そして何より単純な疑問のために口を開いた。
「あの、どうして子供たちは十二歳で結婚しなければいけないと思っているんですか?」
「うん? 誰だね、君は」
「この子は村の外の子です。それより、質問に答えてやってください」
おばあさんは一つ咳払いをしてから、語り始めた。
「今から1000年前――」
あ、これ長くなるやつだ。
いろいろとグダグダ言っていたけど、要約するとこういうことだった。
今から1000年前、未婚の少女たちが行方不明になる事件が世界中で多発していた。
……いや、1000年前って。人間にとってはものすごく長い時間だろうに。
まあいいや。
調査の結果、それは『悪魔』による誘拐だと分かった。
どうやら、『悪魔』たちは誓いの口づけを交わしていない少女の血を欲しているようだった。
この村でも多大な犠牲を払って『悪魔』討伐したことがあったが、まだまだ彼らは大勢いることが確認できた。
だから、いつからか子供は早めに結婚するのが慣習となっていったということだった。
ルーチェのお母さんから聞いた話とほとんど同じだ。
大昔のことをいまだに引きずっているなんて。
それに、おばあさんの話だと結婚していない女の子なら誰でもいいことになるから、十二歳で結婚しても意味がないと思うのだけれど。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
「だからおぬしも、はよ結婚させろと言うておるに」
「はいはい、わかったから。だから今日来てやったって言ってるのよ」
「何?」
お母さんはわたしとルーチェを前に押し出して言った。
「――この二人、結婚するから」
「……は?」
おばあさんは目を丸くして口をぽかんと開けた。
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