ありきたりな悲劇は(12)
「なんてことを…」
1枚目の手紙を読んだわたしは思わずそうつぶやいた。
確かに、たしかに、幾度となく繰り返さる悪質で危険な運転による事故を抑制しようと、危険運転致死傷罪と重い刑罰が施行された。だが、この「危険」の定義が、この制度の運用を難しくもした。被害者にとってはつらい話になるが、だれしもが「危険」だと考える行為と、法が定める「危険」とは必ずしも一致しないのだ。
危険運転致死傷罪も含め、執行される法は一定の基準を満たさなければ、とても法治国家とは呼べなくなる。感情で判断してはいけない。状況を的確に把握し、法に則り、粛々と裁決するのが裁判なのだから。
正美さんの気持ちもわかる。理解もできる。変わらないなら変えなくてはならない流れを生み出すしかないということも。
記者として多くの事故、事件を取材してきて痛感したのが、この壁だった。
どうしても、ましてや、未成年による陰惨な事件ならなおさらに、遺族はほとんどの情報を伏せられ、更生の名のもとに、社会にも一切しらされることなく、刑期をおえて、何者でもないように社会に溶け込んでいく。
法制度の改正を願い続けた遺族は数知れず。不運な事件でした。お悔み申し上げます。ですが、更生のため、一切の情報は渡しません。という遺族にとっては不条理につまれた高い壁。だとしても、
たとえそうであったとしても、
「こんな、こんな手段を、いい、はずが・・・」
現実の不条理な壁の高さに、遺族の無念のさけびに、無力感だけが残った。
その後、
判決は大方の予想通り、
過失運転致死傷罪 最も重い 懲役7年となる
裁判所の前まで走りだこんだレポーターは「懲役7年、7年です」
「危険運転致死傷罪の適応はされませんでした。」としきりに伝えていた。
そして、狙い通りに食いついた報道各社は、
正美さんの死亡をめぐる判決は瞬く間に拡散、その悲劇はワイドショーを席巻し、情報番組は法制度の在り方を問い、国民感情はおおきく燃え上がった。
官邸から「法改正も視野に検討する」と談話がでたばかりだ。
行き交う情報を眺めながら、ひとみはこの手紙をどうするべきなのか、と自問していた。
数枚あった1枚は事故を起こす計画書。
2枚目にはSDカードの扱いのこと。中身は見ても構わないこと。
そのSDカードには映像が保存されており、正美さん本人と、本田和良さんが映っており、二人から、
ある少女にむけてのメッセージだった。
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