第10話ありきたりな悲劇は(10)
届いた封筒の中身は、
数枚の書類のようなものとSDカードが一つだった。
ふと、
消印が気になり、確認すると事故の前日となっていた。
なぜ?とはおもいつつも
とりだしてし、書類のようなものをよんでみる。
そこには、
まず、このような手紙をみずしらずのあなたに送ることをお許しください。
また、この手紙を記者さんが読んでいるころには、わたしはもうこの世にいないこととおもいます。なぜ、記者さんにこの封筒が届いたのか、疑問に思われたのは仕方がないことと思います。どうしても、あなたには伝えしておかなければならないという意思のもと、送ったことだけはおぼえておいてもらいたいのです。
ご存じの通り、
わたしは本田和良さんの車に撥ねられてこの世にいないこととおもいます。
ことの経緯をここに記しておきます。
わたしには家族がいました。愛していた夫と息子がいました。どちらも大切な、ほんとうに大切なひとたちでした。ですが、もうどちらもいません。
交通事故でした。
たまたま、ほんとうになんの落ち度もなく亡くなる家族を、大切なひとを、理不尽にも奪われる苦しみを、わたしは知っています。
だれにとっても、
他人事ではなく、あした、あさって、もしかしたら今。どこかでだれかの大切な人がなくなっているかもしれません。
車は凶器となりえます。被害者の家族、親戚、知り合いたちだけでなく、加害者の家族。親戚。どこまでも大きな影響があります。
わたしはそれを少しでも報せたい。
啓発運動や安全運転を促すさまざな活動があることは知っています。しかしながら、わたしにはもう時間が残されていなかった。いえ、正直に申し上げると、疲れたのです。生きることに。苦しみのまま生き続けることに。
そんな時でした。
公園から飛び出しそうな少年と、住宅街を猛スピード走り抜ける車をみたのは。
なにも変わってはいなかった。
愛した人たちを失った、わたしの悲しみ、苦しみはなんだったのか。
誰だってわかっているはずです。住宅のなかを猛スピードで走れば事故が起きると。
とまれない、よけられない、ぶつかるしかないじゃないですか。
法律の壁は、そんな私の想いを踏みにじりました。
住宅の立ち並ぶような場所で、
常識的に見て危険な速度で走行することは犯罪を故意に起こす危険な行為に値しない。
なんて馬鹿な話だとおもいませんか。止まれない、よけられない、ぶつかるしない速度で走る行為は危険じゃないなんて、信じられますか。
そこには何もない前提で考えるんです。
わたしの愛した夫も息子もそこにはいなかったんです。
おかしいとおもいませんか。
私は決意しました。この命を使ってでもこの問題を問題で終わらせない。と。
本田和良さんとは縁があって、出会いました。
わたしは、やさしい彼につけこみ、この計画を実行してくれるように頼みこみました。
さまざまな説得を試みてくれましたが、わたしの体調をしり、決意の固さを知り、夫と息子の命日に二人のもとに行きたいと懇願するわたしに、他にまかせるぐらいなら私もすべてを被ろうと、とむりやりに巻き込みました。
世間ではきっと、また無職の男性による無責任な事故だと報道されていることでしょう。ですが、縁があったというあなたにだけは知っておいてほしいと思い、彼には黙ってこの手紙をだしました。二枚目はわたしが考えた事故の計画書です。すべて私が考え彼に実行してもらいした。この手紙をうけてあなたがどうするのかはわかりませんが、できるなら、きっと行われるだろう法律の改正がされたあとに、公開していただけると幸いです。
被害者に正しく寄り添った法改正がなされることを願っております。
山本正美
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