第8話ありきたりな悲劇は(8)
和良は普通の男だった。
小学校でも中学校でも高校でも、クラスの中心になるような人間ではなく、いつのまにか雑務をこなす地味な学生だった。成績は生来のまじめさがよかったのか、上位と言ってよかった。それでも、難関校に合格できるとか、そんなレベルでもなく、近隣ではちょっと難しいところに合格できそう。くらいだ。
高校では袴姿に魅入られ弓道部を選び、月並みだけど、凛とした副主将を務める先輩に憧れもした。まじめさもあって先輩にも気に入られ、先輩の引退を残念にもおもい、卒業式にはちょっと涙目で送り出した。
恋愛には奥手で、まともにしゃべれるとは言い難かった。が部活の先輩としての立場上接することが増えために、ある程度は改善されてるとおもいたい。
二年生を無難にこなし、最上級生に。
まじめに練習をこなす姿に、実力で勝ち取ったとはいえないが「副主将」に任命されたのは、生まれて初めての大役に感じ、緊張もしたが、先輩と同じ場所に立てたことに喜びも感じて、今以上にまじめに、部全体を見るようになった。
下級生からの「かず先輩」や「かず副主将」と呼ばれることに気恥ずかしをおぼえながらも、円滑に部を取り仕切れるまでになった。
振り返ると、過去の自分では考えられないな。と部活動最後の大会の前にふとおかしくなったのは懐かしい思い出だ。立場が人を育てる。なんてなにかで読んだけど、ほんとうのことだった。
大会を終え、後輩にこれからの部のことを任せ、引退。
「かず先輩」がいなくなるとちょっかいをかけるひとがいなくなって寂しい。と、ぼそっと言った後輩は叩いておいた。
学生の本文は学業と、成績もなんとか落とさずに、受験の波に乗れたのは幸いだった。これから自分はどこに向かうべきだろうか?なにを目指すべきだろうか?さまざな悩みを抱えながらも、近所の図書館で受験対策をしているときだった。
「おー?かずじゃない?」「えっ?」
顔を上げた自分の前にいたのは、
あこがれていた弓道部の副主将の先輩だった。
急いで立ち上がり、「おひさしぶりです」と頭をさげる。と
「お、おーっ 変わってないね、かずわ」と笑われた。すこし化粧をしているその笑顔がかわいくて、
少し赤くなった頬をごまかすように、
「そんなことないです」といった。
それから、先輩がいまどんなことを勉強しているのかをきいたり、自分の今の悩みなどを聴いてもらいながら過ごした。別れ際に、また連絡するよ!と言ってもらったとき、小さな恋心が芽生えていたから、ほんとうにうれしかった。
いろいろ悩んだ末に、進学する大学をきめ、受験に臨んだ。そして、
見事合格して、卒業。大学生活のために、初めての一人暮らしを始めた。
まずは勉強をしっかりとしないとな。と意気込んで臨んでいたが、
大学生活は自分が思っているよりも時間を自由に使わないと損だと気付てからは、多くを仕送りに頼るのも情けない気がして、無理のない範囲でアルバイトも始めた。
無難な生活に、ちょっと大人に近づいたような刺激と、提出するレポートを無難にこなし、あたらしい大学生活は過ぎていった。
秋に差し掛かり、人肌が恋しい季節になるころ、偶然、先輩と再会した。
コーヒーがおいしくて、よく通うようになったちょっとだけおしゃれな喫茶店で読書をしていたときだった。久しぶりの再会に、話が盛り上がり、「かずはいまだれかとつきあったりしてるの?」と聞かれ、とっさに「先輩のことが好きだったのでつきあっているひとはいまs・・・」 あとは言うまい。
付き合えるようになったことが、生涯で一番の出来事だったとおもう。
二人でいろいろな話をして、ちょっと旅行にいって、たわいもない話をしながら街路樹の並木道を、手を繋いで歩くのが幸せだった。近くの喫茶店で待ち合わせ、ちょっと遅刻して慌てて入ってくる先輩はおかしくて、かわいかった。好きな人と一緒にいられる時間がこんなにも、輝いて見えることなんだって初めて知った。
充実した大学生活も、先輩が卒業して就職してからは少しずつ会う時間は減っていった。もやもやした、思いを抱えながらも、会える時はうれしくて、楽しかった。時間がずれ、次第に会わなくなって、先輩から「わかれよっか」って言われたときは世界が反転したような気持ちになって思わず「結婚しよう」っと口走ったのは生涯にわたって妻にイジられるネタみたいになってしまった。けど、それでよかったと今でも思っている。
自分の卒業を待ってもらって就職とともに、結婚した。
その二年後
、妊娠。翌年に第一子が誕生。かわいい女の子だった。
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