第6話ありきたりな悲劇は(6)

正美は、


昔馴染みの女性の強い勧めに連れられて、その集まりを訪問しただけだった。


行きたかったわけでも行きたくなかったわけでも、もうどうでもよかった。


会場に足を踏み入れると、優し気な音楽に包まれた立食会のような催しで、それぞれのテーブルには年嵩のさまざまな年齢の方たちが集まり、話をしているようだった。


少しの間立ち止まっていたわたしたちに向かって、一人の壮年に差し掛かるかのような男性が声をかけてきた。


男性は二人を、そっとテーブルにいざない、昔馴染みの女性となにかを話ているようだったが、正美は気にもせず、ぼーっと立ち尽くしていた。


しばらく話したあと、


「ここには同じような経験をなさったかたがたくさんおられます。お話してすこしでもなにかが軽くなればとおもいます。どうぞ、ゆっくりと回ってみてください」


と離れていった。


そのあと、なにを話したのかは記憶になく、相槌をうつ人形のようだったとあとから昔馴染みの女性から聞いた。ただ一つだけ反応が違ったらしく、そこだけは教えてくれなかった。


何かにつけて、馴染みの女性はわたしを集まりに連れて行こうと画策しては、実行に移して連れ出しに来た。はじめのほうは何度も断っていたのだが、さすがにもうどうでもいいと思いそれからは幾度か顔をだすようにしていた。


たまに取材があるらしくあの壮年な男性となにか親し気に話す女性の記者がいる。


そんな折、


めずらしく馴染みの女性に急な予定がはいり、同行できないと申し訳なさそうにしてきたので、「きょうはひとりでもいくわ」と返事をすると「そう、よかったわ」と笑っていた。


どうでもいいと顔を出し始めた頃からだろうか、一人の少女を目で追っている自分に気付いた。少女はまだ幼く、しかし、寄り添うような親は見当たらず、時折、あの男性と話しては、またテーブルに戻っていく。


「ひとりなんだろうか?」そう思い始めるともう見ていられなかった。


幾度かの光景を目の当たりにした頃、少女はわたしのテーブルにも歩いてきた。


そのとき、ふと、そう。ふと、おもったのだ。


「いもうとにもこんな頃があったな」と。


幼さが多く残る少女は、誰にでも話し掛け、はなしを聴いて回っているようだった。


少女に話しかけられ、お互いのことを話しているときだっただろうか、


「仲のいい姉妹にあこがれている」という少女におもわず、


「わたしには妹がいたわ」といい「仲いいの?」って聴く少女に


「年の頃はあなたたくらいで仲は良かったと思うわ、でももうずいぶん前に亡くなったのだけどね」


そうはなしてから、少女の顔がすこし曇ったのをみて


わたしはなにをしているのだろうかと、戸惑い、そうして思い至った。


こんな少女に、


きっとこの子にもつらいことがあったはずなのに、こうして気にかけてまわるような子がいるのに、わたしは・・・。


なにかが、かわったのか自分にはわからなかったが、


正美はその日を境に、少しずつではあるが周りを見始めようとした。


ただ連れられて参加していた集まりに、少女との出会いがあり、少しつだが、あたたかいなにかがわたしのなかに、あるような、そんな気がしていた。


集まりを重ねるうちに、少女のことを妹のように接するようになり、少女もまた似たような感情を抱いているんじゃないかな?


なんて思い始めていた頃、


あの男性を紹介された。少女と男性もまたこの集まりでつながり、少女の手助けを陰ながらしているとのことだった。少女の境遇も幼いながらに過酷だったようで、男性はなんとか好転させようと、さまざま機関に問い合わせては、改善を図ろうとしていたらしい。その甲斐もあって、なんとか少女は落ち着ける生活を取り戻したとのことだった。


それから、たわいない話など、折々に重ねるうちに、男性とも親類のような情を感じる間柄にまでになった。幾度かの季節が巡り、少女の成長に喜び、男性のやさしさに触れ、「家族ってこういうものだったかな」なんて思い出したりもして、このまま穏やかにくらしていけたらいいな。 


そう、おもっていた。

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