#79 夢の中に行ってる場合じゃねぇって

 どき

 それは、黄昏たそがれの時刻——現在で言う午後6時頃、トワイライトタイムである。読んで字の如く、「魔物に遭いそうな時間」という意味だ。夕方から夜は、魔物の動きが活発になる。中でも逢う魔が時は、神隠しなんかも起きやすくて、かなり危ない時間なのだ。


 そんな時間に、突如強い力を発したパワーストーン。

 つまり、この時間に気をつけろということ……?


「あっ」

「どうした京汰」

「華音も、カレンも、聖那さんも……夕方から夜に部屋を荒らされてた……」

「そうなのか?!」


 つまり、魔物が活発な時間帯にポルターガイスト事件は起きている。魔物が動き出しそうな時間帯に、あのパワーストーンが自ら忠告していたというわけか。

 俺が考察を2人に語ると、悠馬は『京汰もたまには使える頭してるんだよね』と言ってくる。ここはスルーだ。


「でもさ、狙いは何なんだ? 京汰の周りの女の子ばっかり狙って、京汰を引き付けてるってことか?」

『女の子をダシに使うのは良くないですよねぇ、ご主人』

「でもみんなに聞いても、盗まれてる物はなかったって言ってたんだよなぁ。ただただ、荒らされてただけだって」

『……今思ったんだけど、ってことは、犯人は悪戯いたずらに女の子の部屋に入ってたんじゃなくて、何かを探していたんじゃない? でも探し物が見つからなくて、転々としてるとか……』

「探し物……」

「魔物が必死に探すものって何だ? 京汰分かる?」

「分からん」


 女子の部屋を狙うということは、女子が持ってるような物?

 でも華音もカレンも聖那も、俺から見たら女子力は平均以上にある方だと思ってる。そんな彼女達の部屋に入ってもなお、見つけ出せない物って一体何なんだよ本当に……。


「何なんだよ一体……」

『何だろう……』

「……♪探し物は何ですか、見つけにくい物ですか」

『♪カバンの中も、机の中も』

「『♪探したけれど見つからないのに』」


 突如父と悠馬のデュエットが始まり、2人が俺を無言で見つめる。


「……え?」

『京汰ぁー。ノリ悪すぎ』

「まだまだ探す気ですか、って言ってくれよ京汰ぁ」

「……その歌知らないから! 多分俺が生まれる前だよね?!」

「生まれる前でも、この歌は常識だ」

「ってか歌ってる場合じゃないから」


 ……いや、確かに。

 犯人は「カバンの中も机の中も」探したのだろう。そうじゃなければ、彼女達の部屋はあそこまで荒れないはずだ。でも見つからない。相当「見つけにくい物」なのかも知れない。

 歌も終わった後、悠馬が呟いた。


『ねぇ、華音ちゃんとカレンと聖那さんの共通点って何だろう』

「俺の知り合いってことじゃない?」

『他には?』

「明るい?」

『他には?』

「……び、美人?」

『やだ、何照れてんのよ京汰くん』

「うるせぇ」

「いいなぁ京汰。色んな美人と知り合いなのかぁ」


 ニヤニヤする父を睨みつけると、俺のスマホが長く震え出した。

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