#78 京汰くんの宝物

「は? イケメンパワーの源が視えた?!」

「あぁ。だからごめん、俺勝手に京汰の部屋入ったわ」

「俺の部屋にあったの?!」


 父曰く、夕方6時頃に、得体の知れない強い力が発されるのを感じたらしい。1階のリビングで、悠馬の作り置きをつまみに飲んでいた父がその力の方を向くと、それは俺の部屋から発せられていたのだという。


「俺の部屋のどこに、そんなもの……」

「部屋入って右手にさ、京汰が小学生の頃くらいの高さの本棚あるだろ?」

『ご主人、高さの例えが秀逸』

「悠馬、ツッコむ前にお前のご主人とやらの話を聞け」

『ごめんって』

「いいんだよ〜悠馬ぁ。で、その本棚の上に小さな白い箱があるだろ。母さんが昔、バレンタインで高めのチョコ買って京汰にあげてた時の空箱。あの箱のフタが小刻みに揺れてカタカタするくらい、強烈な“気”と光が漏れ出しててさ」

「あ、あの箱……もしかして、開けたのか?」


 すると父はかぶりを振った。


「いや、きっと京汰の超プライベートマル秘な物なんじゃないかと思って、すっごい開けたかったんだけど全力で我慢した」

「そうか……」


 あの箱の中には、たった1つだけ、物が入っている。

 俺にとって、すごくすごく大事な物で。でも鍵付きの引き出しに仕舞い込むのは勿体無いからと、お気に入りの箱に入れて、時折開けては眺めていたのだ。

 ただ、眺めていた時にはそんなカタカタいうほどのパワーなんか溢れ出たことはなかったんだ。まぁ、何かそういうパワーが宿っていたらいいなぁなんて思ったことはあったけど、そこまでの力があるとは思っていなかった。


「まさかあれに、本当に、力が……」



 ◇◇



 さかのぼること3年前の、12月。

 期末試験が終わった後、華音をホラー映画デートに誘った時のことだ。



「あのさ……これ、あげるね。嫌なことあっても、これ握ってたら大丈夫だから!」



 あの言葉と共に渡されたのは、淡い紫のパワーストーン。

 華音曰く、「何となく可愛いし、持ってたら嫌なことが減った気がする」という理由で持ち続けていたというパワーストーン。それを渡米前、俺に渡してくれたんだ。


 好きな子がくれたプレゼント。大事にしないわけがない。

 俺は何度もそれを撫でた後、あの小箱にしまったのだった。


 それから彼女は帰国して、大学で再会した。しかも、同じ学部、同じクラスで。

 やはりあのパワーストーンには、何かを惹きつける力でもあるのだろうか?


 ——いや、力があるにしても、俺がイケメンになる力まであるとは……



 ◇◇



「京汰?」


 父の一言で、ふと我に帰る。現実に引き戻された俺は、ダッシュで部屋から小箱を取り、リビングに持ってきた。

 箱をそっと開けると、中から親指サイズのパワーストーンが顔を出した。じんわりと淡い紫色のままで、強大な力を発した後には見えない。

 悠馬が『触っても良い?』と聞いたので、「慎重にな」と答え、許可を出す。彼は左手の平にそれを乗せ、上から右手で軽く触れた。そしてゆっくりと目を瞑る。

 しばらくして、目を瞑ったまま悠馬が呟いた。


『ご主人……これ……』

「どうした?」

『何か……複数のモノが……』

「モノ?」


 悠馬が目を開け、父にパワーストーンを手渡した。父も先ほどまでの悠馬と同じ体勢で、パワーストーンに触れる。


「そうですよね……やっぱりおかしいですよね……」

「おい、誰と話してる?」

『京汰、めっ』


 父がやっと目を開け、パワーストーンをそっと箱に戻した。


「何か、複数の魂みたいなのが入ってる」

「え?」

「あぁ、別に悪いモノじゃないんだ。むしろ、ありがたい存在で……そのーやっぱり、京汰に起こった変化は忠告の可能性が高いってことだ」

「忠告……もしかして、華音とかカレンに起こってたポルターガイスト事件と関連が?」

「あぁ、そういえば何だか、色んな女の子の家に上がり込んでは結界張ってた時があったな、京汰……」

「言い方に悪意がある」


 二次被害を防いだだけだ、と文句を垂れる俺を見て、父はごめんごめんと謝る。


「京汰のおかげで、確かに彼女達への二次被害は回避できてる。でもその分、京汰。お前に何らかの危険が及ぶ可能性も高まってるということだ。その忠告を、この小さな石は、珍しい変化という形で伝えてくれていたのかも知れない」

「その珍しい変化、ってのが……」

『京汰がイケメンになったことだね!』

「何か、ちょっと傷つく……」


 身内に何度も容姿を誉められ、実はちょっぴり舞い上がっていただけに、この衝撃はなかなかのものであった。やはり、何の努力もなしにイケメンになれるわけがないか。

 わずかに項垂うなだれた俺を見逃さなかった式神が、『大丈夫大丈夫。元は悪くないんだから』と俺の背中をさすりながら言葉をかける。いやそれ、慰めになってないからな?


『……で、ご主人。この石から力が発されたの、午後6時頃だとおっしゃいましたよね?』

「あぁ。この時間帯にも大きな意味はあるだろうな」


 昼間から飲んでいたとは思えないほど、しっかりとした頭脳をフル回転させ、父は壁掛け時計を指差し言った。


どき。この時間にもきっと、意味がある」

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