#77 美男の源泉

「はぁ〜っ、食った食った! 悠馬ありがとう! ビールもあればもっと最高だったけど」

「あのなぁ。未成年しか住んでない家に酒があるわけねぇだろ」

「分かってるって。京汰、思ったより真面目だもんな。明日自分で買ってくるよ」


 悠馬お手製の塩おにぎりとツナマヨおにぎり、そして白菜の浅漬けに舌鼓を打った父は大層ご満悦である。流石に酒は自分で買ってきてくれ。


『で、ご主人。帰国を早めたのにはご事情があったとか……』

「あ、そうそう。それが本題だったね」


 緑茶を飲み干し、姿勢を正した父は俺をダイニングチェアに座らせた。ソファでくつろぎながら聞くような話ではないらしい。


「……お前達、イケメンになったよな」

「はい?」


 またいつものおふざけか、と思って早々に席を立とうとすると、「前にも言ったろ」と真剣なテンションで父の言葉が降ってくる。


「ほら、前にビデオ通話した時さ。画角とか明るさの関係で京汰がイケメンに見えたのかと思ったんだけど、やっぱ

『ほら、僕が言った通りだ』

「……で、でも身内以外に言われてないから、説得力がなぁ」

「友達は素直に言えないだろ。男からしたらちょっと悔しいし、女子からしたら口にするのは恥ずかしい。そんなもんだ」

「でも俺、何にもしてねぇよ? 美容とか疎いし。悠馬はどうだか知らないけど」

『僕も何もしてないよ? 生まれつきイケメンだから』

「そうだなぁ、悠馬のはとびきりイケメンだもんなぁ、でも可愛く見える時もあって、そのバランスが黄金比なんだよなぁ」

「……ノロケてんなら部屋行くぞ」

「待てって」


 すると父は、耳を疑うようなことを言った。


「お前達がさらにイケメンになったのは、んだ」

「はい?」

「……もったいぶらずに話せば、この家に何か……そういう力みたいなものが……宿っている、気がする。俺、離れていてもお前達の様子を視ることができるって言っただろ? でも最近——ここ3、4ヶ月くらいな気がするんだけど——何か悠馬以外の強い“気”を感じてさ。実は、前ほどうまく視えてなかったんだ。どうもそれが気になっちゃって、もしかしたら何か良くないことの前兆かもとか思って、早く帰国したんだけど……」


 でも家に来てみても、その力の発信源がよく分からないんだよなぁ、と父は呟く。


「俺達が家にいない時は、今まで通り視えてたのか?」

「あぁ。京汰が夏休みの旅行中に1回だけ未成年飲酒してたり、高校の時の美少女と2人きりで——」

「あーっもういいっ! それ以上はいいっ!」

『僕気になるんだけど?!』

「今はその話じゃないっ!」


 余計なものを視まくっていた父を全力で遮り、本題に戻す。


「とにかく、視え辛くなってたのは俺が家にいる時だったんだな?」

「そうだ。で、ビデオ通話で見た京汰と、今見た京汰はやっぱり、離れて視てた時よりどこかイケメンになってて……」

「じゃあ俺、家以外ではいつも通りの顔なんじゃん」

「確かに。言われてみればそうかも」

「何やねん」


 でも、そこまで言われても、俺にはイケメンになる力の源がある場所の見当などつかない。


「この家のどこかにある、はずなんだが……」と父は悩み込む。


『ではご主人、僭越せんえつながら、1日中お家にいて見張ってもらえませんか?』

「へ?」

『いや、僕もお供したいんですが、京汰の世話もありますし……』

「なるほど。決まった時間に何らかのパワーが強まる可能性もあるよな」

『はい。それがいつなのか、探してみましょう』

「オッケー」


 その後、「はい解散〜」と言って自分だけソファに沈み込む父を見て、何だか、俺は必要なかったんじゃないかと思う。悠馬と何か2人で取り決めしてただけじゃん。


『何京汰。僕とご主人だけでお話してたから、面白くないの?』

「えっ、京汰もパパと話したかったか? 何だよもーう、嫉妬しちゃってぇ」


 もぉぉぉぉぉうっっっ! もーやだっっっ!!!


「な・ん・で・も・ないっ!」


 ドカドカと音を立てて階段を上ると、「俺の家壊さないで!」と父の情けない悲鳴が響いたのだった。




 翌日。


 俺は大学で授業を受け、昨日よりは短い時間のバイトを終わらせて、夜8時頃には帰宅したのだが……。


「ただいまぁ」

「京汰! 京汰京汰京汰京汰京汰っ!!」

「は?」


 ビールを片手に、リビングから顔を出した父が俺の名前を連呼する。慌てて靴を脱ぐと、父がまたとんでもないことを言い出した。


「京汰! イケメンパワーの源が視えたっ!」

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