#71 大福様のお説教

 俺は2人のLINEアカウントを招待し、急遽グループを作成する。


『こんばんは。京汰です』

『夜分にすみません。緊急の連絡ってかお願いです』

『今すぐ、2人で一緒に聖那さんの家に行ってあげて下さい』

『聖那さんは今、色々テンパってるので、落ち着かせてあげてもらえませんか』


 聖那さん、のキーワードを出した瞬間、既読が一気に2になり、彼女の人気の根強さに改めて絶句する。


『了解!』

『了解したんだけど、俺聖那さんの家分かんないんだけど?』

『初めまして! 俺知ってるんで一緒に行きましょう! とりあえず梅沢駅に20分後集合で』

『きょーちゃん、この人信用に値する?』

『大丈夫です。俺の腐れ縁なんで』

『分かった、きょーちゃんがそう言うなら俺はあなたを信じます!』


 そこから2人の返信は一旦止んだ。身支度を始めたようだ。

 一連のやり取りを見ていた悠馬が、不安そうに眉尻を下げて俺を見つめた。


『この2人で大丈夫なの?』

「2人だからこそ、変な気を起こすことはないと見た」

『だって1人はミスコン目当てに広告研究会入って、1人は聖那さんにゾッコンの大ファンなんだよ?』

「このご時世、同意なしでのアクションは社会的に抹殺されるから問題ない」


 俺は城田と体調が回復したカイさんに全てを託し、まずはカレンの事件の謎を解くべく、術の下準備を進めておくのだった。




 翌日。

 俺はカレンとの待ち合わせ時間まで、自宅にお友達のあやかしを招いて過ごすことにした。


 昨晩遅くに大貴から連絡が来ていた。


『遅くにごめんな。まだ起きてるだろ?』

『カレンは、どうにか落ち着いてきたみたい。明日のフラメンコ発表もあるし、とりあえず寝ておけと言ってある』

『で、京汰ならどうにかできそうだってことと、起きたら京汰に連絡してみなってことも伝えといた』

『俺も明日早いから寝るな』

『カレンと話す時間くれてサンキューな』


 ってな顛末で、今朝早くにカレンから打ち上げが終わりそうな時刻と待ち合わせ場所を伝えられ、今に至る。

 悠馬は『でも打ち上げって朝まで続くんじゃ』と心配そうにしていたが、カレン曰く、1年生は一次会で帰っても問題ないらしい。2年生以上になると、打ち上げの幹事補佐とか色々役職が就くようになるので、そうもいかないらしいが。


 朝食後に俺のてのひらサイズのあやかしが1匹やってきた。俺がガキの頃から世話になっている、通称・大福だ。本当に大福みたいな形で、目は切れ長の一重。唇も粘土作品にヘラで線を引いただけみたいな感じだが、笑うと全部がくしゃっとなって、なかなか可愛いのだ。ただ、可愛いと言うと『我は、きょたよりずーっと年上なんだぞ!』とプンスカするので、迂闊に言わないようにしている。ちなみに齢は1000年越えだとか。


『きょた、この後結界張るんだって?』

「あぁ。でもそれは最近もやったから、大丈夫」

『じゃあ、今日は九字護身法くじごしんほうの復習しよ』


 九字護身法とは、その名の通り9つの名称を唱えて身を守る方法だ。空中を縦に4本、横に5本切りながら唱えていけば良いのだが……。


青龍せいりゅう白虎びゃっこ玄武げんぶ、す」

『ちがーう! きょた、ちがーう! 朱雀と玄武が逆!』

「青龍、白虎、朱雀すざく、玄武、勾陣こうちん……えーっと」

『やり直しっ!』

「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陣、帝台ていたい、っ、あ、北斗ほくと南斗なんと、ぎょ」

『何途中の「あ」って。それ神様の名前? きょた、神様侮辱してる?』

「あ、いやそんな、滅相もない」

『しかも誰、ナントって呼んでるの。南斗なんじゅなんだけど? きょた、神様侮辱してる?』

「ひっ、いや、そんな滅相もない」

『あと北斗と南斗逆ね』

「え」


 たった9つを思い出すのに、こんなに時間がかかるとは……。悠馬には間違える度、『TAKE せぶんてぃーんっ』などと煽られる始末。やっと思い出して完璧にできたと思うと、今度は結界の張り方を忘れている。これには俺もため息をついた。


『きょたの父上は一発で覚えていたのに……』

『悲しいほどに遺伝しないね、京汰……』


 全員でため息をついていると、俺のスマホが震えた。

 昨日作ったばかりのグループチャットへの通知だ。城田が笑える思い出話を夜通し語り聞かせて聖那さんを安心させ、カイさんがご飯を作って聖那さんに振る舞ったらしい。なんだ、なかなかできるメンツじゃないか。


『今のきょたよりは、できる人間だな。きょたよ、見習え』

「大福様に言われちゃあ、何も言い返せねぇじゃんか……」


 あっという間にカレンとの待ち合わせ時間が近づいてきたので、俺は大福に礼を言い、悠馬と共に外へ出たのだった。

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