#70 被害者多すぎなんだって

「でも警察に通報しないって言っても、カレンも親御さんも流石に心配だろ」


 大貴は不安そうに呟く。まぁ、好きな人が怖い思いをしていることを知ってしまったのだ。不安になるのはもっともだ。俺も経験済みだし。


「そうだな。だから大貴、俺からお願いだ」

「お願い?」

「そう、お前にしかできない。……今晩はカレンに連絡して、不安を和らげてやってくれ。明日も朝から忙しいかもしれないけど……」

「俺でいいのかな……だってカレン、巧のこと……」

「いいから。カレンは大貴に連絡して来た。つまり、今カレンが助けを求めてるのはお前だ。だからお前が心配を取り除いてあげるべきだ」

『そうだよ大貴。それに言い方は良くないかもだけど、これはチャンスだよ』

「チャンス?」

『女の子は、弱った時に優しくしてくれる男に惚れやすいから』


 大貴は一層不安そうな顔をして、俺に問いかける。


「この悠馬……って人……人? って、恋愛マスターなの?」

「マスターぶってるだけだが、今のはあながち間違いではない」


 現に、結界を張った後の華音の行動……俺の手をぎゅっと握ってくれたし……あれは、嫌いな奴にはやらないよな……?

 うん、間違いではなさそうだ。悠馬の言葉ってのが憎たらしいけど。


 大貴の瞳に、強い意志が灯った。


「俺、頑張ってみる」

「応援してっぞ」

『僕も応援してまーす』

「ありがとう、2人とも」


 悠馬は再び隠形し、俺と大貴は電車に乗った。俺の方が先に降りるのだが、その時に忘れず言っておいた。


「悠馬のこと、誰にも話すなよ」と。




『大貴、うまくやってるかな』

「あいつは、お前が認めたコミュ力お化けだろ? きっと大丈夫だ」

『そうだよね』


 帰宅して悠馬とそんなことを話していると、俺のスマホが短く震えた。


「ん?……はっ?!」

『どうしたの京汰』

「せ、聖那さんも……やられた」

『……嘘ぉん?!』


 華音からLINEが来たのだ。先ほど、聖那さんが叫ぶ声がしたので駆けつけると、部屋が荒れていたと。どうも忘れ物を取りに帰ってきたら酷くなっていたようだ。

 俺はすぐ、華音に電話を入れた。


『もしもし。京汰くん?』

「もしもし。聖那さん、大丈夫か? 華音は今どこにいる」

『今、一緒に聖那さんの部屋の玄関先にいる。聖那さん、だいじょばなさそうなの』

「え?」


 あれだけ多くの修羅場を経験してきた聖那さんなら、ある程度の強心臓だと思っていたのだが……やはり空き巣のように見えると怖くなってしまったんだろうか。


『あ……あの……うっ、京汰くん?』

「あ、はい。聖那さん?」

『実はね、私ね……昔下着泥棒に3日連続入られたことあってね、初日はヨレヨレのサラリーマン、2日目は髪色が汚いヤンキー、3日目は目の焦点が合ってない爺さんで……それ以来、うっ、荒れた部屋見たらもうダメなのぉ……うっ』

「それは……キツいな……」


 再び電話を代わった華音によれば、華音の身に以前まで起こっていたポルターガイスト事件との万が一の関連を考え、警察には連絡していないらしい。


『聖那さん、今日はお店休むって』

「そんなにひどいのか……俺、今晩は聖那さんと過ごそうか?」

『華音ちゃん貸してっ!……ダメだよ京汰くんっ! 聖那に浮気しちゃダメっ!』

「……は?」

『……あ、京汰くん? 私。華音。私、聖那さんの所いようと思って』

「女子2人だけは危ない。それに明日も朝早いだろ?」


 いきなり聖那さんが出てきて驚いた。その後も電話の奥で、『京汰くんは華音ちゃんの専属だから』とか『京汰くんが聖那の世界に入ってきたら危ない』とか『聖那は新宿に愛されてる女だから』とか、訳の分からないことを言っている。

 ここまで来ると、流石に心配だ。ただ華音は、明日も文化祭での屋台の仕事があるので、無理はさせられない。とりあえず盗まれた物がないかだけを一緒に確認するよう伝え、電話を切った。


『どうする、京汰。あんなにメンタル行かれた聖那さん、初めて見た』


 悠馬が俺の顔を覗き込む。


「例の仕業か、見極める必要はある。でもとりあえず、聖那さんが落ち着くことが大事だよな。誰かの介入が必要だけど……」

『でも京汰が行くと、また半狂乱になりそう』

「策はある」

『いやぁ、それは……』


 俺の策を察した悠馬は天を仰ぐが、仕方ない。

 考え抜いた末、あの人物を呼び出すことにしたのだった。

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