#64 京汰くんの秘密【篠塚華音】
授業が終わって、京汰くんを迎えるために家路に着く。
自分の部屋の前まで帰ってくると、ちょうど聖那さんが出かける所で、挨拶を交わした。
「ふぅ」
あれ、何でこんなに心臓がバクバクしてるんだろう。
気持ちを落ち着けながら部屋に入って考えてみた。
高校生の時——
文化祭の告白タイムでなぜか私、京汰くんの隣で屋上で寝ちゃってて。でもそこからさらに話すようになって、ホラー映画デートに誘ったんだよね。私の呼び方に迷っていた京汰くんに、「華音でいいよ」なんてイケイケなこと言っちゃって。
あの頃は積極的だったのに、なぜかアメリカに行ってから大人しくなっちゃった。多分ライリーがものすごいグイグイ来る人で、私が若干引いたからかもしれないけど。
あの頃を思い出せば、行けるんじゃない?
……行けるって、何が。
——こうやって、『京汰くん、かっこいいよね』とか、『京汰くんの○○な所、好きかも』とかさ
「……あばっ!」
高校生の頃の私達と、つい一昨日のカレンとのやり取りを思い出していたら、何だか気恥ずかしさでどうしようもなくなっちゃった。
でも多分……多分、カレンが言うには、両想い……なんだよね? しかも京汰くん、鈍感……なんだよね?
それなら、私がちょっとぐらい強引に行って気づいてもらった方が、これ以上悶々としなくて済む……よね?
——ピンポーン
「わっ」
インターホンを見たら京汰くんが映っていて、驚きと嬉しさと安心感と緊張みたいなごっちゃごちゃの感情のまま部屋に通した。
「おっす」
「お、おっす」
「真似しなくてもいいんだよ」
お邪魔しまーす、と入ってきたのは2人。
「悠馬くん……?」
はっきりと姿を現した式神の悠馬くんは、申し訳なさそうに頭を下げた。
『ごめん、華音ちゃん! 僕勝手に華音ちゃんの部屋に入って勝手に怒って勝手に出て行って、本当に勝手だった!』
「あ、もうそれはいいよ悠馬くん。私も短絡的に考えちゃってたし」
『じゃあ、仲直り、してくれる……?』
「ふふっ、元々喧嘩したつもりはなかったよ」
私と悠馬くんは目を見合わせて笑った。良かった、元通りになれて。喧嘩こそしてないけど、気まずかったから。
「よし、悠馬の謝罪も済んだとこで、早速始めようと思う」
「うん……京汰くん、何を?」
「細かい話は避けるけど、ざっくり言うと、この部屋のセキュリティレベルを上げるってことかな」
「なるほど……結界、みたいな?」
「えっ?! 知ってんの?!」
「あ、うん。これ……」
私は“怪談と社会2”って講義のプリントを京汰くんに見せた。春学期にカレンと巧が受けていたやつで、学生から好評ってことで急遽秋学期も開講されたシリーズ授業。今はカレンと受けていて、たまたま平安時代の物の怪や式神を扱ってたってわけ。そこで、確か悠馬くんは式神だったな……と思い出して、京汰くんの正体に気づいた。
「京汰くんって、陰陽師……みたいな人……?」
「まぁ、結界張るって言ったらバレちゃうよな、はは……」
「バレたらいけないことだったの?」
「実は……高校生の時から隠してた」
えっ、と驚く私に、悠馬くんが近づいた。そんな彼の腕を京汰くんが引っ張って止めようとしたけれど、『もういいじゃん』と振り切って悠馬くんが口を開く。
『京汰の家系は陰陽道をやってた家系なんだ。僕は京汰のお父さんが生んでくれた式神でね。……ほら、高校の文化祭の告白タイムで、テニスバカ……違う、城田に追いかけられて屋上に来た時あったでしょ? あの後、暴風雨にさらされてる中、誰かが家に連れてきてくれた夢を見たって……』
「あ……うん」
『実は華音ちゃんが夢を見てた時、京汰は華音ちゃんを襲おうとする化け物と戦ってたんだ。陰陽道の術を使って。多分華音ちゃんは気を失って、夢を見てるように感じたのかもしれないけどね』
「え……?」
『まだまだ半人前だったけど、京汰は1人で華音ちゃんを守って、傷を負った華音ちゃんの回復も担ったんだ。華音ちゃんはそれで命拾いをした』
「ちょ、1人ではないって」
『ほぼ1人だったよ』
「京汰くん……」
「悠馬……」
私が化け物に襲われてた? それを京汰くんが助けてくれた?!
私の命を……助けてくれた、人……。
それを自らひけらかさずに今まで……。
あれ、おかしいな。
目の前が、滲んできたよ……。
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