#61 謎のURL
話、とは一体何ぞや。しかも悠馬が真剣な顔で切り出してくるなんて。
気になって仕方ない俺は昨晩よりも気持ち早足で帰宅すると、ドアを開けるなり悠馬が
『祓いに行こう、京汰』
「へ?」
『華音ちゃんの家!』
「華音の家を、祓うのか?」
『うん。犯人は分からないけど、あの時多少の違和感はあったんだ。だから祓っといた方が良いかも』
「あの時?……あ、華音の思考に“呼ばれた”時か」
『そう。何て言うんだろう。はっきりとは掴めないんだけど、
「おまっ、重要な情報だろそれ。早く言えよ」
『でも手がかりってほどでもなかったんだもん』
妖気の残り香。
それは文字通りの香りではない。少しだけ濁ったような、時空が歪んだような、普通の人間には全く分からない程度の、僅かなひずみのようなもの。
俺が華音の家に行った時には、感覚を研ぎ澄ましても感じられなかったものだ。
「俺が行った時には感じなかった。悠馬の方が敏感だったのか?」
『それもあり得る。でも京汰、高校の皆川先輩事件の時から少しは修行もしてるから、あれくらいのには気付けたと思うんだよ。多分、京汰が行った時には、事件があってから時間が経ってたから、残り香もなかったんじゃないかな』
「ってことは……悠馬が行った時には、まだ近くにいた可能性が」
『そういうこと。でも僕も怒っててピリピリしてたから、そこまでは気付けなかった』
「そうか。でもお前……華音に怒ってたんじゃなかったのか? そのことはいいのか?」
すると悠馬は前髪をふわりとかきあげ、『僕も大人になったのさ』とか意味の分からないことを言い出す。
『僕は最近、京汰に怒って、華音ちゃんにも怒ってた。でもね、怒り続けたって良くないって分かったんだ。怒るエネルギーがあるくらいなら、早く解決しちゃった方がいいじゃんって』
「まぁ、そうだな」
『それにさ』
悠馬はかきあげ、露わになったおでこを俺に見せつけてくる。凛々しい眉毛と愛嬌のある瞳の強さに、不覚にも一瞬クラッとした。お前オールバックでもイケメンなわけ? すっげぇなんか、うん、憎たらしいな。
『ずーっと怒ってたら、眉間にシワが寄っちゃうでしょ。僕の綺麗な顔が歪んじゃうなんて、ひどい話だと思わない? 最近僕のイケメンが進化してる気がするし』
「…………」
結局自分のことかいっ!
「まぁひどいかどうかはさておき、悠馬の言うことも一理ある。華音に連絡してみるか」
『うん。その時は僕も一緒に行くから。で、華音ちゃんに謝る』
「了解」
『ね、僕の顔、前よりもうちょっとイケメンになってるよね?』
「それは知らん」
『京汰もイケメンになってきてるよ!』
「どこが」
『分かんないけど、なんとなく』
「根拠のない賞賛はやめておけ」
話を切り上げて2階の自室に入り、鞄の中のスマホを取り出す。さて、華音に連絡しなきゃ……
「あっ!」
スマホをタップして出てきたのは、リマインダーのポップアップ通知。やっベぇ、授業の中間レポートが明日の朝9時に締切なの忘れてた。でも何書くんだっけ?
講義一覧が見れる学生専用のマイページに行って調べてみると。
——現代社会のサステナビリティに関して、自分が興味を持っている取り組みを根拠やデータと共に記すこと。またその取り組みに関しての課題や改善点についても、文献等を引き合いに出しつつ調べて書くこと。文字数は3000字以上8000字未満とする。データ等のデジタル媒体を用いた引用の場合は、官公庁などの信頼できる引用元を用いること。当然のことだが、捏造・改ざん・盗用は厳禁! 提出遅延も厳禁!
「あぁぁぁぁぁぁっっ」
SDGs概論なんて取らなきゃ良かった。今年から開講されたミーハーな講義なんて、なんで取ってしまったんだ……。一緒に履修している大貴に泣きつこうとしたが、あいつも楽単至上主義者だ。ヒィヒィ言ってる可能性がある。まずは自分で頑張るか……。
「はぁーっ、めんどくせぇーっ」
ため息をつきながらパソコンを開いたら、連動させているLINEの通知が来た。
「ん、父親?」
海外赴任中の父から、入学式以来久々のLINEだ。開いてみると、URLだけが貼られている。仕事用のを間違えて俺に送っちゃったんだろうか? だとしたら早めに伝えてあげた方が良いだろう。
『これ、息子のアカウント。送る相手間違えてない?』
すると光の速さで返事が来た。
『珍しく反応が早いな。間違いなくお前宛だよ』
『既読スルーは厳禁! 緊急だ』
「厳禁って、どっかで見たよなさっき」
課題を出した教授と同じ言い回しを使ってくる父に再びため息をつきつつ、既読をつけてURLを押したのだった。
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