#51 心友の大暴走
城田がダブルフォルトぉぉぉぉ!!! と叫んだことで、聖那さんは俺から体を離した。はぁ、マジで俺の理性が危なかったよ。今だけはこいつに感謝してやろう。「アウト」の代わりに「ダブルフォルト」と叫ぶのは、元テニス部のこいつの個性光ってて好きかもしれない。
まだシロちゃんこと城田に腕を引っ張られながら「仕事柄、どうしても距離近くなっちゃうのぉ。ごめんね京汰くんマジ許して、ごめんちゃごめんちゃ」と謝る聖那さんのとぅるとぅるの唇は夕方でも十分艶やかで、俺は慌てて目を逸らす。「ごめんちゃ」で謝罪になると思ってるあたり、やっぱこの姐さんブッ飛んでる。
幾分落ち着きを取り戻してから、昨日の出来事を聖那さんに話した。少々説明が長くなってしまったが、それでもうまく話をまとめられた方だろう。城田も状況を飲み込めたようだ。カウンターには、聖那さんが即興でコースターに書いた相関図がちょこんと置かれている。
「なるほど……確かに知恵の輪だね、その絡まり具合」
「そうなんですよ。それで会長、このメンツに一旦活動休止を言い渡しまして」
「あ、私も似たようなことあったよ。私とウクライナの女の子がイタリア人の彼を好きで、彼はカナダの女の子が好きで、その子はベトナムの男の子が好きで、その子が私を好きだったってやつ」
「……地球規模じゃないっすか」
途端に、1つの大学の学食に集まるメンバー同士の事件が超小さく見えてくる。つーか霞んでくる。マジでどんな半生送ってんのこの人。
「もうね、SNS大炎上したの。私がパスタの写真あげただけでウクライナの子から『ふざけんな』って誹謗中傷浴びて、翌朝にはベトナム人の子が『世界は終わった』『暗黒の死よ来たれ』って連投して。で、イタリア人の彼がメープルシロップ持った自撮りあげただけで私メンブレしたんだよねぇ。そんでカナダの女の子が『フォー美味しかった♡』っていうのを男性っぽい二の腕が見える写真と一緒に匂わせ投稿した3分後に、イタリア人の彼が病みツイを全世界に公開っていう」
すると城田が「あ」と声をあげる。
「そういえば、聖ちゃんのアカウント写真が真っ黒だって姉貴が言ってた時期ってその時?」
「そうなのよぉ。シロちゃんのお姉ちゃんには心配かけちゃったーてへぺろ」
聞けば聞くほど俺より酷そう。やはり相談相手をミスったか。
「……で、ごめん京汰くん脱線しちゃったぁ。京汰くんのとこも大変だよね〜」
「さすがに地球規模ではありませんが」
この場合、誰の案件から動いた方が良いのだろう。
俺の中では玲香が動くべきな気がしている。あいつが会長の返事を聞く前に話をぶった切った理由だけが、どうしても分からないからだ。
「でも今回のことはさ、京汰くんじゃあどうしようもないことじゃない? それぞれが持ってる事情がデリケートじゃん。今絶対にうまく行きそうなの京汰くんと華音ちゃんしかいないし、ここで2人が動くとそれはそれで下手な刺激になりそう。私が当事者だったら突っぱねちゃうかも」
「そうですか……って、え、俺華音とそんなうまく行きそうに見えてるんすか」
「うん。……華音ちゃんの一件も片付けばね」
「あ……」
「おい京汰、華音ちゃんの一件って何よ。美女に何が起こってんだよ」
「あぁ、それは、かくかくしかじかで……」
そう、華音のポルターガイスト事件。あれも解決しないと、悠馬は語尾に『ふんっ』をつけたままだ。
すると聖那さんは、妙なことを言った。
「ってかさぁ、変な感じ。今の所、“よじかんめ”のメンバー全員に何かしらが起こっているってことだもんね。もしかしてこれ知恵の輪じゃなくてさ、絡まったあやとりだったりして?」
「あやとりですか?」
「うん、解いてみたら1本の毛糸でした〜! 的な?」
あやとり……そうかなぁ……。現在、これらは別件として捉えるべきだと思うが。
俺が考え込むと、城田が焦れたように口を開く。
「ねぇ聖ちゃん、俺のこと置いてかないでよぉ〜京汰の悩み聞くために来たんじゃなくて、俺は聖ちゃんとおしゃべりしたくて来たのにぃ」
「あ、シロちゃん、良いこと思いついたよ私」
「え、なになに?」
「これ引き受けたら、シロちゃんの全休にデートしてあげようかな」
水を得た魚、とはまさにこのことを言うのだろう。
城田は目を
「何でもするの?」
「聖ちゃんのためなら、ノースリーブで南極行ってもいいし、ドブ沼の水飲み干してもいいし、激マズ飯食ってもデスソース全身に塗りたくってもいいよ」
「そ、そこまでしなくても…………やっぱいいや」
「いや聖ちゃん! 俺を頼って!!」
俺は何を見せられてるんだろうか。
聖那さんが城田に出した案件は、「俺と一緒にポルターガイスト事件の全貌を暴くこと」だった。具体的には華音の見守りらしいが、華音に怖がられてるからなこいつ……。
「とにかく、京汰くんの力になってあげて。
「まぁ、amigoだけど……」
「じゃあまぁそういうことだから。頼んだよシロちゃん!」
気づけばもうカフェは終了の時間に差し掛かっていて、俺もバイトだったのでお暇することにした。なんだかんだで聖那さんは色々アシストしてくれて助かる。
「京汰くん。カイちゃんによろしく伝えといてね!」
「承知しました」
「えっ聖ちゃん、カイちゃんて誰??!!」
「大事な大事なお客さん♡ 京汰くんのバ先の先輩!」
「それはフォルト! 駆逐しなきゃ! 京汰、俺も今からお前のバ先に向かう。襲撃だ」
「落ち着け城田ぁぁ!!」
お店を出て、興奮状態の城田をなだめて襲撃を諦めさせ、俺は電車に飛び乗る。
あぁ、本当にあいつと一緒に解決なんてできるんだろうか。
するとその時、ポッケの中のスマホが震えた。午後6時15分、篠塚華音さんから通知が1件。
『京汰くん、帰宅したらこんななってた……』
続いて送られてきた写真には、棚の上の物だけが見事に落下した華音の部屋が写されていたのだった……。
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