#50 色々めんどくせぇ奴ら

 急遽“よじかんめ”が会長によって活動休止となり、俺は大学におけるほぼ唯一の所属を失い、もぬけの殻になっていた。そして帰宅しても……


「ただいま」

『……おかえり。ふんっ』


 そう、華音のポルターガイスト事件で悠馬を勝手に容疑者に仕立て上げてしまったため(そもそも、カイさん・リュウさんツインズに同じようなことやってる方がいけないと思うのだが)、ずっとヘソを曲げているのである。見ての通り挨拶はするものの、語尾に『ふんっ』をつけるようになってしまった。ふんっ。



 ……「可愛い」などと悠長に思っている場合ではない。

 だって、俺が今気兼ねなく付き合える奴はもう、悠馬しかいないのだから。



「なぁ悠馬、本当昨日はマジでごめんって。反省してるって」

『反省の色が見えない。ふんっ』

「ど、どうしたら見えるようになるんだよ……」

『そんなの自分で考えてよ! ふんっ』


 土下座しようとすれば、『土下座しとけばどーにかなると思ってんでしょ、某銀行員ドラマの悪い影響だね。ふんっ』と言うし、立って普通に頭を下げようとすれば『そんな軽々しいなんて、敬意が見えないね。ふんっ』と言われる始末。取りつく島もねえじゃんか……。

 結局俺はなすすべがないまま夕飯タイムを迎え、いつもより質素な気がしなくもない夕飯が悠馬から提供された。まだおまんまを出していただけるだけマシ、なのかもしれないが……。


『白米と味噌汁ともやし炒めだよ、ふんっ』


 味噌汁以外はオールホワイトの食卓である。

 だが、悠馬の方を見ると。


「あ、あの、見間違いではないと思うのですが、悠馬のだけもやし炒めの中に肉っぽいのが……」

『味噌汁に豆腐入ってんだから、タンパク質は問題ないでしょ、ふんっ』

「いやそういうことじゃ『うるさい! 文句言うなら自分で作るべし! ふんっ!』」


 俺のだけ肉抜いときながら、栄養バランスだけは考えている悠馬。どんなにセリフが長くても、末尾の『ふんっ』だけは絶対に忘れない悠馬。マジなんなんこいつ。


「……ご馳走様でした」

『お粗末様でした、ふんっ』


 もうそこまで怒らなくて良くない? 疲れない? と思うが、一旦キレたり呆れたりすると、このモードが早々元通りにならないことを俺は知っている。まぁまだ会話してくれてるだけマシだ。

 時間が解決してくれないかななんて呑気に考えて、俺は明日の第二外国語(チャイ語)の小テストに向けて勉強するのだった。


 嗯、測試和悠馬是麻煩的根源(あぁ、テストと悠馬が悩みの種だよ)。



◇◇◇



 昨日姉貴にパシられた城田との待ち合わせには、時間ギリギリに着いた。誰だよ線路内に物落とした奴。ワイヤレスイヤフォンマジ害でしかねぇ。


「おう京汰、チャイ語テストだったんだろ? どうだった?」

「英年早逝(見事に死んだ)」

「沒問題(問題ない)」

「いや問題あるから! てかお前スペ語だったよな? 俺の言ったこと分かったの?」

「チャイ語は你好と再見と沒問題しか知らないから適当に言った」

「それで会話成立しちゃってた、漫才がかってたけど」


 城田が言ってた「一緒に行きたい所」が何か分からないまま、ただ「ついてこいamigo」と言われて俺は従う。「あれ、マブダチだとbueno amigo? いや、心の友だからamigo de corazon?」なんてブツブツ独りごちてるけど、俺にはさっぱり分からねぇ。アミーゴの前に来るのは青○だけだと思ってる。今度カレンに習おうか。……活動再開したら。


 そしてどこか見覚えのある街に入り込んで、かなり見覚えのある小道を通って、絶対にここだなって場所で城田は足を止めた。


「着いた! ここだよamigo」

「ちょ、おま、ここって——」

「いーからいーから!」


 カランカラン♪


「わぁーシロちゃんじゃん♡ 今日も来てくれたの? 嬉しくって困っちゃうぅぅ……って京汰くん、また?! そろそろ本気でホストの面接?」

「いや聖那さん、これは事故——」

「タイム! なんで俺の聖ちゃん知ってんの?! は、なんでなんで?!」

「あのな城田、それこっちのセリフ!!!」


 シロちゃんいつも可愛い〜、と飼い犬のごとく聖那さんに頭を撫で回される城田。俺に対して目ん玉飛び出そうなくらい驚いた顔を見せつつ、鼻の下はしっかり10mくらい伸びている。


 なんと、聖那さんと城田の姉貴が中学の先輩後輩の関係。弟分の城田は昔から聖那さんに可愛がられていたようで、この前このお店を教えてもらったんだとか。つくづく、世間は狭すぎると実感する。

 ちなみに俺達は未成年なので、まだカフェである時間にしか来ることができない。聖那さんに案内され、俺達はカウンターに通された。奥から城田、聖那さん、俺の順に座っている。


「ここめっちゃ美女いるから、京汰にもこの幸せをお裾分けしたいと思ってだな」

「ダメだってばシロちゃん。京汰くんには華音ちゃんがいるんだもんね♡」

「え、お前ら付き合ったの?!」

「まだです!」

「あれ、京汰、まだってことは……?」

「うぐっ」

「近いうち、ってことで良くない?♡」


 痛い所をついてきやがる。城田の奴、高校の時はチンパンジーより低い知能だと思ってたのに。大学受験で下手に知性を磨いてしまったのだろう、今じゃ立派なホモサピエンスだ。


「てか京汰くん、会長くんの一件は解決したの?」

「いや、それが暗礁に乗り上げまして……実は、知恵の輪並みの痴情のもつれが発生したんです」

「え、どういうこと。力になりたいから、聖那お姉さんに詳しく聞かせてよん」


 聖那さんがそのナイスなバディを俺の方に乗り出してくると、城田が「フォルト!」と急に叫んだ。アウトの言い方のテニス感が強え。「何シロちゃん、お友達のお悩みは聞くべきじゃん。そんな悪い子に育っちゃった?」と聖那さんが言って、さらに俺の方に身を乗り出す。グラマラスなお体とシャンプーの香りが近いって……!


「シロちゃん、聖那お姉さんはみんなのもの。カイちゃんのものでもあるし♡」


 そう言って俺にウインクしてくる聖那さん。本命は華音だけど、ここまで近づかれるとちょっと俺の本能が……!

 その瞬間、城田が聖那さんの左腕を引っ張って再び叫んだ。


「聖ちゃん! それはダブルフォルトぉぉぉぉ!!!」

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